北海道自然史研究会

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今年度の大会の予定です。

2011年度研究会(大会)のお知らせ

2012年5月12日~13日に石狩市にて開催します。⇒終了しました

 今回は久しぶりの地域開催ということで、野外巡検を兼ねて。5月に実施します(年度替わっていますが、2011年度大会です)。
 例年2~3月に固定することとしていたので、分かりにくくてすみませんが、札幌近郊ですので、振るってのご参加をお待ちしています。

 また研究発表される方も募集しています(3月末締め切り予定)。⇒終了しました

 大会の案内ポスター(チラシ)と、発表タイトル、発表順、要旨を掲載しました!
 大会プログラム・要旨集も掲載したので、ダウンロードしてください!

 大会プログラム・要旨集 ⇒ こちら
 大会ポスター(A4判) ⇒ こちら

 総会(2011年度)配布資料 ⇒ 準備中


北海道自然史研究会 石狩大会

~石狩海辺学(ウミベオロジー)+(プラス)北の自然史 最前線!~

日時
2012年5月12日(土) 10時~17時  研究発表・事例発表
(16時から研究会の総会、懇親会)
2012年5月13日(日) 09時~13時  巡検 (※会員のみ)

場所
石狩市民図書館 視聴覚ホール 収容人数: 50人

巡検
石狩海岸、望来などで計画中

共催:石狩市

大会幹事
いしかり砂丘の風資料館 志賀
石狩浜海浜植物保護センター 内藤

申し込み
一般市民
・定員:25人(先着順)
・参加申込受付期間:5/1(火)~5/9(水)
・参加申込方法:電話で、いしかり砂丘の風資料館(0133-62-3711)へ

研究会会員
・想定参加者数:20人程度
・参加申込受付期間: ~5/9(水)
・参加申込方法:メール等で研究会事務局へ
・所属・メールアドレス・連絡先(電話)・懇親会参加の有無をお知らせください

大会参加費
一般市民 資料代として200円
研究会会員 参加料500円(研究会の年会費も兼ねる)

スケジュール(予定)

10:00~ 開会 会長挨拶など

10:10~12:00、13:00~15:50 研究・事例発表

16:00~17:00 自然史研究会総会

18:00~ 懇親会


これまでの研究会

日時 行事 開催地 講演・シンポジウム
1993年02月 設立集会 札幌・雪印会館 伊藤浩司「サハリンと北海道-植生からみた特異性と共通性-」
1993年09月 野外研修会 上川町
1994年01月 第1回研究会・総会 札幌・開拓記念館 福岡イト子「アイヌ民族と植物」
1994年10月 第2回研究会・総会 沼田町 古澤仁「沼田町の海獣化石」
1995年10月 第3回研究会・総会 様似町 大原昌宏「中部千島の自然」
矢野牧夫「自然史と分化史の接点から」
1996年05月 第4回研究会・総会 黒松内町 矢野牧夫「ブナはいつ黒松内にやってきたか」
大原昌宏「渡島半島の昆虫」

1997年05月 第5回研究会・総会 美幌町 「野生生物との共存を考える」
1998年05月 第6回研究会・総会 倶知安町 シンポジウム 「羊蹄山の自然史」
1999年10月 第7回研究会・総会 標津町 サーモンパーク シンポジウム 「自然と遊ぶ」
2000年04月 第8回研究会・総会 旭川市 博物館 大原雅「春植物の繁殖戦略」
小野有五「嵐山のカタクリについて」
シンポジウム 「春植物と里山の自然」
2001年08月 第9回研究会・総会 平取町 二風谷博物館 「人と暮らしと自然との関わり」
2004年03月 臨時集会・総会 札幌・博物館センター
2004年12月 2004年度研究会・総会 札幌・北大総合博物館
2005年10月 2005年度研究会・総会 札幌・北大総合博物館 シンポジウム 「博物館と分類学-市民と社会の分類学へのニーズ-」
2006年07月 2006年度研究会・総会 遠軽町 昆虫生態館 「網走地方などに分布の偏る植物たち」
2007年09月 2007年度研究会・総会 登別・ヒグマ博物館 登別市ネイチャーセンターの活動紹介
2010年02月 2009年度研究会・総会 札幌・博物館センター 保田信紀「大雪山の高山昆虫」

大会の開催概要


2010年度研究会は、ほっかいどう学の会との共催で実施しました。

 2010年度の研究会は、3/13に予定通り開催されました。3/11に東北地方で大地震があり、開催中止も検討しましたが、北海道での状況も落ち着き、その後の開催機会もつくれないので、実施しました。それでも75名以上の方にご参加いただき、盛況のうちに終えることが出来ました(ほっかいどう学の会からは57名が参加)。会場は道庁赤レンガ庁舎で、歴史ある建物の雰囲気ある部屋でした(しかし明るすぎで、ちょっと画面が見にくかったですが)。
 川辺会長による講演のほか、11本の研究報告がなされて、参加者との質疑のやりとりが行なわれました。発表内容については、以下の要旨集を参照ください。


大会プログラム・要旨集 ⇒ こちら(PDF 1.3MB)
大会ポスター(A4判) ⇒ こちら(PDF 890kB)


開催の様子




総会の開催概要


 2010年度の総会は研究大会に続けて開催されました。次年度の大会を2012年4月または5月に石狩市で開催すること、引き続きウェブサイトの製作を進めることなどが承認されました。


総会(2010年度)配布資料 ⇒ こちら(PDF 380kB)


開催概要


2010年度の大会に関連して、日本生態学会札幌大会で、自由集会を開催しました。

32名の方にご参加いただき、無事終了いたしました。
詳しくはこちら ⇒ 自由集会の報告(pdf)

開催の様子


大会の開催概要


 2009年度の研究会は、2/27に予定通り開催されました。予定より大幅に多い102名にご参加いただきました。保田会長による記念講演のほか、10本の研究報告がなされて、参加者との質疑のやりとりが行なわれました。発表内容については、以下の要旨集を参照ください。


大会プログラム・要旨集(2/24版) ⇒ こちら(pdf 0.8MB)
大会プログラム・要旨集+参加者プロフィール集(最終版) ⇒ こちら(pdf 1.8MB)
大会ポスター(A3判) ⇒ こちら(pdf 0.39MB)


大会の開催概要




総会の開催概要


 2009年度の総会は研究大会に続けて開催され、36名の会員が参加しました。会費を徴収しないこと、次年度以降の大会も札幌を中心に開催すること、ウェブサイトや研究誌発行のための準備グループをつくることが 承認されました(議事概要を参照のこと)。
 また、次年度以降の役員について改選案が出され、承認されました。


総会(2009年度)配布資料 ⇒ こちら(pdf 0.24MB)
総会(2009年度)議事概要 ⇒ こちら(pdf 0.16MB)


今年度の大会の予定です。

2012年度研究会(大会)のお知らせ

2013年2月3日に北海道大学にて開催しました。⇒無事終了しました

北海道自然史研究会2012年度大会

日時:
2013年2月3日(日) 9時~17時半
場所:
北海道大学総合博物館 知の交流コーナー

大会幹事:
大原、持田、小宮山、事務局

大会プログラム・要旨集 ⇒ こちら
総会(2012年度)配布資料 ⇒ こちら

・総会と北海道の自然に関する懇談会を午後に行ないます。
・懇親会は前日2日の夜に札幌市内で予定しています。
 また、後述の講座のある4日夜にも講師の三橋さん参加で懇親会を考えています。
・参加申込方法:メール等で研究会事務局(n-h@cho.co.jp)へ。
 所属・メールアドレス・懇親会参加の有無をお知らせください

大会参加費:
資料代等で500円を予定

懇親会について:
・日時 2013年2月2日(土) 18時~
・場所 「天然居酒屋ふうり」(http://www.hotpepper.jp/strJ000650552/)
 札幌市北区北6条西4丁目 札幌パセオ西側1F
・会費 3500円

スケジュール(予定)
8:30~ (会場準備、開場)

9:00~12:00 研究発表会第一部 会長挨拶

12:00~13:00 昼休み

13:00~15:30 自然史研究会総会、参加者一言発表会

15:30~17:10 研究発表会第二部

17:15 閉会

研究会主催の講座「プラスティネーション標本作成研修会」

 11月に琵琶湖博物館で西日本自然史系博物館ネットワークによるプラスティネーション標本の講座が開かれました。北海道でもこの講座を!ということで、講師の兵庫県立人と自然の博物館の三橋さんにお願いして、大会に合わせて講座を開くことになりました。
 プラスティネーション標本は、シリコン樹脂を組織に染み込ませた標本で、保存性が高く手にとっての観察もできるため、展示や観察会への活用が期待できます。しかし、手法を試すチャンスはなかなかないと思われますので、この機会に挑戦していただければと思います。


日時:
2013年2月4日(月) 13:00 - 17:30(予定)
会場:
北海道大学総合博物館実験室
主催:
北海道自然史研究会
共催:
JST科学ネットワーク地域型「CISEネットワーク」
協力:
NPO法人西日本自然史系博物館ネットワーク
講師:
兵庫県立人と自然の博物館 三橋弘宗・主任研究員
定員:
20名程度
(申し込み多数の場合は会員優先、施設ごとの人数や申込み順で調整します)
参加費:
2000円(材料費として)
参加申し込み:
1/25まで

参考・琵琶湖博物館での研修会
http://www.naturemuseum.net/blog/2012/11/post_42.html

関連行事

 大会前日の2月2日(土)には、会場周辺で関連行事がありますので、サテライト企画として研究会で共催等しています。この機会にこれらの行事にもご参加ください。

○「バイオミメティクス市民セミナー」
 北海道大学総合博物館 13:30~15:30
 http://www.museum.hokudai.ac.jp/event/article/123/

 ネイチャー・テクノロジーと持続可能性社会 石田秀輝(東北大学環境科学研究科教授)

○「海の生きもの講座 ~海中から浜辺まで 映像と標本でみる~」
 札幌エルプラザ3F環境研究室 14:00~16:30
 http://www.city.ishikari.hokkaido.jp/kaihinsyokubutu/newpage-umibehuukei2012-2.htm

 石狩湾の生物多様性
  ・・・ダイビングショップ ゼムハウス代表 藤田 尚夫
 自然教室を通じた磯の生きもの観察
  ・・・旭川大学地域研究所特別研究員 斎藤 和範
 漂着物から見た石狩湾の生きもの
  ・・・コメンテーター・いしかり砂丘の風資料館学芸員 志賀健司

北海道自然史研究会2013年度大会


日時:
2014年2月23日(日) 10時~16時半 ⇒無事終了しました
場所:
札幌市博物館活動センター5階講義室(札幌市中央区北1西9リンケージプラザ5階)

大会幹事:
山崎、古沢、大原、事務局
共催:
札幌市博物館活動センター

大会プログラム・要旨集 ⇒ こちら
総会(2013年度)配布資料 ⇒ こちら

・総会と北海道の自然に関する懇談会を午後に行ないます。
・懇親会は前日22日の夜に札幌市内で予定しています。
・参加申込方法:直接会場にいらしてください。

大会参加費:
資料代等で500円を予定

問い合わせ先:
北海道自然史研究会事務局 n-h@cho.co.jp 011-892-5306(さっぽろ自然調査館内)
   フェイスブックサイト:http://www.facebook.com/n.hokkaido

スケジュール(予定) :
9:30~ (会場準備、開場)

10:00~12:00 研究発表会第一部 会長挨拶

12:00~13:00 昼休み

13:00~14:00 自然史研究会総会(会員のみ)

14:00~16:30 研究発表会第二部

16:30 閉会

発表タイトル:
長谷川 札幌の市街地で繁殖するオオセグロカモメ
神戸 札幌市内のエゾチッチゼミの生態
内藤 石狩川河口左岸砂嘴におけるイソスミレの分布状況
有賀 札幌ワイルドサーモンプロジェクトについて
小宮山 知床半島の小河川ペレケ川におけるカラフトマスの産卵生態
丸山 十勝・然別湖におけるウチダザリガニ防除・水草保護の取り組み
中森 広域の河川環境をGISで推定する ―昔のままの流れはどこにあるか?-

工藤 魚を美しく鑑賞!水槽から魚を出さずにプラナリアを退治~簡単安全に駆除できます~
水島 折り紙でアンモナイトを折る ~自然史と幾何学とアートの融合?
福岡 博物館における資試料の整理とデータベースの作成~島根県・三瓶火山を例として~
水島・堀 開拓記念館の「北海道博物館」へのリニューアルと自然史展示について

浅川・川田 酪農学園大学野生動物医学センターにおける学芸員課程学内実習の総括
宇仁 誰でもできる海辺と海上の生き物調べ


研究会主催の講座「標本作成研修会2014」

パラタクソノミスト養成講座 「プラスティネーション・包埋封入標本作製」

 昨年度に続き、展示や環境教育への利用に適した標本の作製に関する講座を開催します。樹脂を浸透させ、質感を残して立体的に標本化するプラスティネーション、透明樹脂に封じ込め360 度から観察できる封入標本などの原理を学び、工程の一部を実習していただきます。札幌圏でトランクキット開発を進めているCISEネットワーク、北大総合博物館が主体となって実施しているパラタクソノミスト養成講座の関連企画としても実施します。

日時:
2014年2月24日(月) 10:00 - 13:00(予定)
会場:
札幌市博物館活動センター実習室
主催:
北海道自然史研究会、JST科学ネットワーク地域型「CISEネットワーク」
共催:
札幌市博物館活動センター、さっぽろ自然調査
協力:
NPO法人西日本自然史系博物館ネットワーク
講師:
さっぽろ自然調査館、工藤智美さん (講座内容指導:三橋弘宗さん(兵庫県立人と自然の博物館) )

定員:
20名 (会員の方は見学可能です)

参加費:
2000円(材料費として)

関連イベント シンポジウム「地域博物館とネットワーク ~新・札幌博物館に求められるもの~」

※旭山動物園と道南の博物館の取り組みについて事例報告をいただきます.現在、札幌市で計画の検討を行っている博物館像についても説明します.地域の博物館どうしの連携プレーで、札幌のミュージアムを使った活動を深く、楽しくしていくアイデアをご来場のみなさんと一緒に考えます.

 ◆日時:2月22日(土) 13:30から16:30
 ◆講演:「つながる!!博物館 ~ウェブとリアルでアプローチ~」 石井淳平氏 ( 厚沢部町郷土資料館 学芸員)
       「動物園が博学連携?! それで先生とできたこと」 奥山英登氏 ( 旭山動物園 教育活動担当, 学芸員, 飼育員)
       「人とつながり、街にひろがるミュージアムを模索中」 古沢 仁氏 (札幌市博物館活動センター 学芸員)
 ◆講演後、パネル討論、懇親会を予定
 ◆会場:札幌市ボランティア研修センター第1研修室 (札幌市中央区北1西9リンケージプラザ2階) 
 ◆主催:札幌市博物館活動センター 011-200-5002
 ◆共催:北海道自然史研究会、CISEネットワーク
 ◆サイト:http://www.city.sapporo.jp/museum/calendar/sympo_20140222.html


北海道自然史研究会2014年度大会

日時: ⇒無事終了しました
2015年3月01日(日) 13:00~17:00
2015年3月02日(月) 10:00~15:30 (フィールド巡検、上士幌町糠平)

場所:
帯広百年記念館2号室(〒080-0846 帯広市緑ケ丘2)

大会幹事:
持田、事務局

後援:
帯広市教育委員会、帯広百年記念館

大会プログラム・要旨集 ⇒ (掲載予定)
総会(2014年度)配布資料 ⇒ (掲載予定)

・総会は大会終了後に行ないます。
・懇親会は前日22日の夜に札幌市内で予定しています。
・参加申込方法:直接会場にいらしてください。

大会参加費:
資料代等で500円を予定

問い合わせ先:
北海道自然史研究会事務局 n-h@cho.co.jp 011-892-5306(さっぽろ自然調査館内)
   フェイスブックサイト:http://www.facebook.com/n.hokkaido

 

スケジュール(予定) :

3月1日(日)
 13:00~    会長挨拶
 13:05~14:00 十勝の自然史研究
 14:15~16:45 一般講演
 17:00~18:00 総会
 19:00~ 懇親会(帯広駅前・ふじもり食堂)

3月2日(月)
 10時までに現地(ひがし大雪自然館)集合。
 10:00~12:00 館内見学&バックヤード見学
 13:00~15:30 フィールドワーク(糠平湖)
 15:30 解散(ひがし大雪自然館)
※持ち物:現地は寒いので上下防寒具、長靴(防寒靴)をご用意ください(使用するかは未定ですがスノーシュー、双眼鏡はこちらで用意します)。

 

発表タイトル:

池田亨嘉 「知らない」はチャンス!市民調査・学習の手法
乙幡康之 ひがし大雪自然館の開館とその取り組み
渡辺 修 『大雪山昆虫誌』と地域の自然情報の集積について

浅川満彦 獣医動物学の創成
小玉愛子 苫小牧の市民参加型タンポポ調査について
菊田 融 札幌圏自然史博物館の連携による学術支援教材(トランクキット)の開発
菊本 舞 ツリフネソウ属のツリフネソウとキツリフネにおける繁殖戦略の比較
坂下裕樹 雌雄異株植物マユミにおける雌雄間の繁殖投資量の違い
丸山立一 羅臼町マッカウス洞窟のヒカリゴケの保全に向けた取り組みについて
野表 結 様似町アポイ岳におけるセイヨウオオマルハナバチの侵入の可能性
千嶋 淳 地域の団体が連携して取り組む海鳥・海獣調査
小宮山英重 カラフトマスの産卵行動:つがい相手を選別する能力について


北海道自然史研究会2015年度大会

日時:⇒無事終了しました

2016年2月28日(日) 10:00~17:00

場所:
北海道博物館(札幌市厚別区小野幌) 講堂 

大会幹事:
水島・堀(北海道博物館)、事務局

共催:
北海道博物館

大会プログラム・要旨集 ⇒ (掲載予定)
総会(2014年度)配布資料 ⇒ (掲載予定)

・総会は昼休みに行ないます。
・懇親会は終了後に札幌駅周辺で開催予定です。車で会場に来られる方はご注意ください。
・参加申込方法:直接会場にいらしてください。

大会参加費:
資料代等で500円を予定

問い合わせ先:
北海道自然史研究会事務局 n-h@cho.co.jp 011-892-5306(さっぽろ自然調査館内)
   フェイスブックサイト:http://www.facebook.com/n.hokkaido

今回は、国立科学博物館のサイエンスミュージアムネット(S-net)事業における標本データベースへのデータ提供方法と活用に関する説明会を同時開催予定です。

http://science-net.kahaku.go.jp/

 

スケジュール(予定) :

2月28日(日)
 10:00~    開会挨拶
 10:10~11:50 発表6本
 11:50~13:00 昼休み
 13:00~13:50 総会
 14:00~15:25 S-NET説明会(国立科学博物館)
 15:35~17:00 発表5本
 18:30~ 懇親会 サントリーズガーデン昊(そら)(北5条西5丁目)

 

発表タイトル:

堀 繁久(北海道博物館) 野幌森林公園の両生類と外来種
内藤華子(いしかり海辺ファンクラブ) 石狩川河口左岸域におけるヒキガエルの定着について
小宮山英重(野生鮭研究所) サケ科イワナ属オショロコマの繁殖生態:魅力的なメスの条件
今村彰生(北海道教育大旭川) オオヤマザクラの花色変化の機能的意義
塚田真理子(北広島エコミュージアム) 「みんなで調べよう!生きもの地図」市民参加型環境調査の実践
中森 達(北海道生物地理) 「シンジュキノカワガ顛末記」

 

加藤ゆき恵(釧路市立博物館) 閉山後40年を経た雄別地区の炭鉱集落の植生
表 渓太(北海道博物館) シマフクロウの集団史-DNA分析による研究-
佐久間有希(北大環境科学院) ハツカネズミのお腹の色とルーツ
宇仁義和(東京農大網走) 自然史博物館の展示変遷と道内博物館の状況
志賀健司(いしかり砂丘の風資料館) 今夜のオカズに生命の歴史を見る~脊椎動物部分骨格標本教材製作学習~


北海道自然史研究会2016年度大会

日時:

2017年2月18日(土) 10:00~17:00(予定)

場所:
北海道大学総合博物館(札幌市北区) 知の交流ホール 

大会幹事:
大原・山本(北海道大学総合博物館)、事務局

共催:
北海道大学総合博物館

大会プログラム・要旨集 ⇒ (こちら
総会(2016年度)配布資料 ⇒ (掲載予定)

・総会は大会終了後に行ないます。
・懇親会は終了後に大会会場で実施予定です。
・参加申込方法:直接会場にいらしてください(懇親会は事前申し込み必要)。

大会参加費:
資料代等で500円を予定

問い合わせ先:
北海道自然史研究会事務局 n-h@cho.co.jp 011-892-5306(さっぽろ自然調査館内)
   フェイスブックサイト:http://www.facebook.com/n.hokkaido

スケジュール(予定) :

 10:00~    開会挨拶
 10:10~11:50 発表5本
 11:50~13:00 昼休み
 13:00~15:50 発表8本
 15:50~16:30 休憩
 16:30~17:20 総会
 17:30~19:30 懇親会 北大総合博物館 1F 知の交差点付近

 

発表タイトル:

  ・持田誠 北海道東部白糠丘陵で確認されたソラチコザクラの意義と課題
  ・植木玲一 ヒメザゼンソウの開花傾向と越冬戦略
  ・菊地那樹 野幌森林公園における希少種モンスズメバチとチャイロスズメバチの確認状況
  ・長谷川理 北海道にやってきたカササギ~どんどん分布拡大中?~
  ・浅川満彦 道内の地域別に回顧された酪農学園大学野生動物医学センターWAMCにおける研究概要
  ・伊藤大雪 北海道のオショロコマは人工の魚止めに追いつめられているか
  ・小宮山英重 河川残留型オショロコマの繁殖生態:オスが産卵行動中のメスに噛みつくのは何の合図?
  ・冨岡森理 イトゴカイの分類学的研究
  ・吉野智生 釧路市内で採集された大型陸棲ミミズ類について
  ・三浦一輝 希少淡水二枚貝カワシンジュガイはエゾアカガエルの越冬地を創出するか?
  ・八谷和彦 調査研究と駆除活動を一体化した深川のヒキガエルに対する取り組み
  ・兼堀穂奈美 洞爺湖におけるウチダザリガニの体サイズからみた分布拡大の考察
  ・圓谷昂史 海岸漂着物を活用したアウトリーチ活動について


北海道自然史研究会2017年度大会

日時:

2018年2月25日(日) 10:00~16:00(予定)

場所:
小樽市総合博物館 研修室 

大会担当:
山本・大鐘(小樽市総合博物館)、事務局

共催:
小樽市総合博物館

大会プログラム・要旨集 ⇒  (掲載予定)
総会(2017年度)配布資料 ⇒ (掲載予定)

・総会は大会終了後に行ないます。
・懇親会は終了後に実施予定です。
・参加申込方法:直接会場にいらしてください(懇親会は事前申し込み必要)。

大会参加費:
資料代・入館料が必要となる予定

問い合わせ先:
北海道自然史研究会事務局 n-h@cho.co.jp 011-892-5306(さっぽろ自然調査館内)
   フェイスブックサイト:http://www.facebook.com/n.hokkaido

スケジュール(予定) :

 10:00~    開会挨拶
 10:10~16:00 研究発表
 16:30~17:30 総会
 18:00~20:00 懇親会


北海道自然史研究会2018年度大会

日時:

2019年2月23日(土)10:00~16:00(予定)

場所:
北海道大学総合博物館(札幌市北区) 知の交流ホール 

大会担当:
大原・山本(北海道大学総合博物館)、事務局

問い合わせ先:
北海道自然史研究会事務局 n-h@cho.co.jp 011-892-5306(さっぽろ自然調査館内)
   フェイスブックサイト:http://www.facebook.com/n.hokkaido

スケジュール(予定) :

 10:00~    開会挨拶
 10:10~15:20 研究発表
 15:45~17:00 総会
 17:30~19:30 懇親会 北大総合博物館 1F 知の交差点付近

 

発表タイトル:

 ・浅川満彦 昨年道内で発生した野生鳥獣死亡事例ーその死因解明と自然史との密接な関連性
 ・吉野智生 衝突事故に伴うタンチョウの骨折部位について
 ・宇仁義和 北海道におけるミンク養殖業と野生化ミンク
 ・持田 誠 豊北海岸の漂着木処理作業にともなう外来種の動向
 ・斎藤和範 旭川市神楽岡公園に生息するアズマヒキガエルの発生消長と餌動物について

 ・有賀 望 豊平川における河床地形の変化とサケ産卵環境への影響について
 ・小宮山英重 同所的に産卵するサケ科魚類の種間での交雑行動とその行動から観察された生殖的隔離の方式
 ・堀 繁久 北海道のゲンゴロウ-その種類と生息環境-
 ・針生航太 花の開閉運動の適応的意義
 ・福岡 孝 日照時間から見た北海道の梅雨
 ・志賀健司 石狩市厚田で御神体となっていたセグロウミヘビ


北海道自然史研究会2019年度大会

日時:

2020年2月15日(土) 13:30から17:00まで

場所:
北海道教育大学旭川校L101講義室 

大会担当:
斉藤・今村(北海道教育大学旭川校)、事務局

・総会は大会終了後に行ないます。
・懇親会は終了後に実施予定です。
・参加申込方法:直接会場にいらしてください(懇親会は事前申し込み必要)。

大会参加費:
資料代 500円程度

問い合わせ先:
北海道自然史研究会事務局 n-h@cho.co.jp 011-892-5306(さっぽろ自然調査館内)
   フェイスブックサイト:http://www.facebook.com/n.hokkaido

スケジュール(予定) :

 13:30~    開会挨拶
 13:40~17:00 研究発表
 17:15~18:00 総会
 19:00~21:00 懇親会

 

発表タイトル:

 ・志賀健司 石狩湾東部沿岸でのウミガメ漂着記録
 ・田作勇人 石狩浜における海浜性ハネカクシの生息状況
 ・堀 繁久 札幌市北ノ沢地区で確認された国内外来種アズマヒキガエルの食性について
 ・斎藤和範 旭川市の小中高生における外来生物の意識調査
 ・浅野旭宏 北海道の雑種性タンポポについて
 ・今村彰生 メタバーコーディングによる北海道の在来魚群集とニジマスの分布把握の試み
 ・中尾 稔 見捨てられた貝、ドブシジミ科微小二枚貝の DNA バーコード化
 ・尾針由真 北海道におけるモノアラガイ科貝類の分布、肝蛭感染および遺伝学的特徴について
 ・佐々木瑞希 北海道の鳥類における吸虫類の多様性
 ・浅川満彦 酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった北海道道北・道央および道南地方における研究・教育活動概要補遺―2017年以降の公表論文
 ・吉野智生 阿寒国際ツルセンターにおけるビオトープ再生の試み
 ・佐久間大輔 小規模博物館の自然史標本をどう維持し活用するか 博物館法改正 に向けた視点として


2021年度北海道自然史研究会・研究大会


2021年度大会はZoomで2022年2月20日(日)に開催します

2021年度北海道自然史研究会・研究大会
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日時:2022年2月20日(日) 13:30から16:30まで
会場:ZOOM開催
参加費:無料

13:30~16:30 一般講演
16:30~17:30 総会

【参加費】 無料
【参加定員】 100名以内(予定)
【参加申込み】 2月18日まで
参加される方は事前にフォームかメールで申し込みしてください。アクセス用のアドレス・ID等を当日までにお知らせする形になります。

・登録用Googleフォーム https://forms.gle/ug1NFJVS3Sag9MuZ7
・事務局 n-h@cho.co.jpまで メールアドレス・氏名・会員か非会員かの区分

【問い合わせ先】 北海道自然史研究会事務局 n-h@cho.co.jp 011-892-5306(さっぽろ自然調査館内)

※発表予定タイトル
志賀健司 石狩海岸林のキタホウネンエビが生息する融雪プールの十年規模の変動
内藤華子 石狩川河口左岸砂丘部の10年間の地形変化
水島未記 チョウザメ(ミカドチョウザメ、Sakhalin sturgeon)Acipenser mikadoi はサハリンで繁殖していたか?
徳田龍弘 撮影してきた北海道の両生類の中から色彩変異を紹介
吉野智生 嘴に異物のはまったタンチョウの餓死について
浅川満彦 魚病学教育と自然史
山崎真実 施設内花壇を利用した花豆のプチワークショップ~コロナ禍での試み事例紹介~
渡辺修 累計1万人が参加する市民調査がもたらすもの~さっぽろ生き物さがし6年間の検証~
持田誠・志賀健司 自然史は博物館で生き残れるのか?全国博物館大会シンポジウムの報告と投げかけられた課題

発表一覧


午前 10:00~12:00
 西川洋子 石狩浜の花とマルハナバチ -セイヨウオオマルハナバチの侵入がもたらす影響-
 安田秀子 定期観察による石狩浜の花ごよみ 2011
 竹橋誠司 砂浜のきのこ
 藤原 一暢 石狩海岸に分布するイソコモリグモについて
 徳田龍弘 石狩市内で見つかったシロマダラ

午後 13:00~14:20
 志賀健司 石狩海岸林の融雪プールと花畔砂堤列
 濱崎眞克 石狩湾沿岸防砂林内湿地に生息するキタホウネンエビについて
 水島未記 北海道の鯨骨製記念物 続報と自然史的な意義
 大鐘卓哉 石狩湾に発生する上位蜃気楼の観測

午後 14:30~15:50
 鎌内宏光 道東における明治開拓以降の環境変化と森川海のつながり(予報)
 川辺百樹 セグロセキレイにとって石狩川上流域は北限の安定的繁殖地
 堀 繁久 北海道のゲンゴロウ
 大原昌宏 博物館標本とバイオミメティクス

要 旨

石狩浜の花とマルハナバチ -セイヨウオオマルハナバチの侵入がもたらす影響-

西川洋子 (北海道立総合研究機構 環境科学研究センター)

 花と花を訪れる昆虫は、受粉を介して密接なつながりを持つ。なかでもマルハナバチは、学習能力が高く、気に入った花を繰り返し訪れるので、花粉の運び手として、植物の種子繁殖を維持する重要な役割を果たしている。石狩浜に広がる海岸草原でも、多くのマルハナバチが観察される。主な在来マルハナバチは、エゾオオマルハナバチとハイイロ(ニセハイイロ)マルハナバチである。また、近年この地域へセイヨウオオマルハナバチが侵入、定着し、年々観察数が増加している。石狩浜におけるセイヨウオオマルハナバチの侵入が、在来マルハナバチの訪花パターンと利用する植物の種子繁殖に及ぼす影響を明らかにするため、セイヨウオオマルハナバチの侵入程度が異なる2地域について、主要な海浜植物の開花状況、マルハナバチ類の訪花頻度、結実率(種子のでき方)の比較を行った。在来マルハナバチ2種は、利用する植物の嗜好が異なっていた。セイヨウオオマルハナバチが利用する植物は、在来種のなかでも短い口吻を持つエゾオオマルハナバチと似ており、ハマナスやハマヒルガオで多く観察された。しかし、より長い口吻を持つハイイロマルハナバチがよく訪れていたハマエンドウでも訪花が頻繁に観察されるなど、セイヨウオオマルハナバチは比較的多くの植物を利用していた。セイヨウオオマルハナバチが多い地域では、少ない地域に比べ在来マルハナバチの観察数が少ない傾向がみられ、特にエゾオオマルハナバチがよく利用していたハマナスでは、セイヨウオオマルハナバチの利用割合が高くなっていた。今後セイヨウオオマルハナバチがさらに増加すると、餌資源をめぐる競争の結果、在来マルハナバチの減少傾向がエゾオオマルハナバチだけでなくハイイロマルハナバチでも加速することが予測される。マルハナバチがよく利用する植物の種子のでき方は、現在のところセイヨウオオマルハナバチ侵入の影響は認められなかった。ハマナスでは、減少したエゾオオマルハナバチのかわりに、セイヨウオオマルハナバチが受粉を担っている可能性が考えられた。


定期観察による石狩浜の花ごよみ 2011

安田秀子 (石狩浜定期観察の会)

 石狩市はまなすの丘公園(石狩市浜町地先)は石狩川河口の砂嘴先端部にあり、石狩市の海浜植物等保護地区を有し、はまなすの丘公園を含む石狩砂丘を中心とした約25kmにおよぶ石狩海岸は、北海道自然環境保全指針(平成元年)において「すぐれた自然地域」に選定されている。砂浜と砂丘草原、湿地部分もあることから、海岸植物や湿生植物等、約180種類の植物が生育している。ハマナス・ハマボウフウの大群生地に加え、絶滅危惧種であるイソスミレの日本海側の北限自生地でもあり、最近は絶滅危惧種の海浜生キノコやイソコモリグモが確認され、改めて注目を集めている。
 石狩浜海浜植物保護センターは、石狩浜の自然の基礎情報を得るために、2004年より石狩浜に生育する代表的な植物の開花状況および野鳥の観察状況を記録してきた。本観察もその一環として行われた。2011年の4月から10月までほぼ2週間毎に、はまなすの丘公園の散策路沿いに見られる海岸植物、湿生植物、帰化植物を含む主な植物55種について、植物の状態を記録した。植物の状態は、つぼみから始まる8ステージ(つぼみ、開花始まり、多数開花、多数散花、開花終了、実り始め、多数の実が色づく、多数の実が落下)のどの段階かを各段階に対応する印を用いて記録用紙に記載した。
 月毎の開花種数は5月に3種、6月に26種に急増、8月29種、9月21種で初夏から初秋まで多種類の花が楽しめる場所であることが確認された。2011年の花ごよみは、5月上旬のトップランナー、イソスミレ開花から始まり、その後、ハマハタザオ・コウボウムギ、6月に入りハマエンドウ・アキグミと順次リレーされ、花ごよみの終盤は8月末にユウゼンギク・ウンラン、最終ランナーは9月下旬のコガネギク開花でフィニッシュとなった。主な植物について、つぼみから開花・結実・落果の様子、2011年に観察された特徴的な事象を紹介する。


砂浜のきのこ

竹橋誠司  (NPO法人 北方菌類フォーラム)

1.はじめに
 砂地生菌類(sand-fungi)は,18世紀初頭に北欧から報告され,海浜に分布する菌類については,これまで,スカンジナビア半島南部,フランス,イギリス,南米で詳細な調査が行われ,海浜には独特な形態的・生態的特徴を持つ多様な菌類が分布する.
 一方,日本では,1955年から1956年にかけて,松田一郎氏と本郷次雄博士が新潟砂丘に分布する菌類調査を行った.しかしその後,この分野の調査・研究は低調で,全国的な海浜生菌類の分布状況やその生理・生態についての研究は,著しく遅れている. 本発表では,石狩砂丘を中心とした菌類の野外観察および培養・接種実験の結果を踏まえ,砂浜に生活する菌類の分布とその生活環の一端を紹介する.


2.観察と実験
 野外観察は,石狩砂丘の前浜から第一砂丘にいたる7ヶ所の調査区,および枝幸町~紋別市,野付半島~風連湖,浜中町~厚岸町,鵡川干潟,苫小牧市の各砂浜を調査した.野外での接種実験は,石狩浜海浜植物保護センター見本園の実験区で行った.分離・培養実験は,産業技術総合研究所北海道センターにて行った.


3. 考察
(1) 分布
 石狩砂丘では新種1種,日本新産種9種,北海道新産種2種,絶滅危惧種1種を含む34属57種が分布する.なお,石狩砂丘以外の調査地で複数の未報告種が採集され,現在検討中である.
(2) 生態(栄養の摂り方)
 分解・吸収:砂浜に分布する菌類の多くは,顕著に発達した根状菌糸束を持つ.その先端は,海浜植物,特にハマニンニクやコウボウムギの根や茎あるいはその遺体と結び付き,これらの植物(遺体を含む)を分解し,栄養として吸収していると考えられる.
病原菌:スナジホウライタケは野外接種実験の結果,ハマニンニクやコウボウムギの病原菌であり,時に,それらを大量に枯死させる.
菌根菌:はまなすの丘公園に自生するクゲヌマランは,その細根にラン型菌根を形成する.菌根のDNA解析の結果,クゲヌマランはベニタケ科,イボタケ科の菌類と共生関係にあると考えられる.
(3) 生理(独自の生存戦略)
 スナジホウライタケの例:培養温度30℃で急速な菌糸成長を示す.さらに,高い耐塩性・浸透圧耐性を有している.
 スナハマガマノホタケの例:本種の菌核は,耐塩性と浮遊性を合わせ持つ.菌核が波にさらわれ,再度打ち上げられることにより生息地を拡散すると考えられる.


4.課題と展望
 これまでの調査から,北海道の砂浜に分布する菌類相が徐々に明らかにされつつあるが,今後も調査地の範囲を拡大したい.同定作業の過程で,採集個体数当りの同定種の割合が少ないことは大きな課題で,専門家と連携した作業が必要である.また,海浜生菌類の生理・生態は不明な点が多く,より幅広い専門家との共同研究の必要性を痛感する.
 未同定標本の中には,新種や日本新産種となる可能性の高いものが数多く含まれ,今後の研究による新たな知見が期待される.


石狩海岸に分布するイソコモリグモについて

藤原一暢 (北海道大学農学院)

 イソコモリグモ(Lycosa ishikariana)は、海浜に生息する穴居性の大型のクモであるが、近年は生息地の減少やレクリエーション利用による影響から減少が指摘され、絶滅危惧Ⅱ類(環境省)に指定されている。SAITO(1934)によって石狩海岸が基準産地として記載され学名にもなっているが、これまでその分布に関する調査は行われていない。本報告は石狩海岸におけるイソコモリグモの分布状況について報告する。
 調査は2011年の夏と秋に石狩市域の延長約8 kmの海浜地を対象に行い、汀線から内陸に向かって垂直に幅10 m×長さ約100 mのベルトトランセクトを6本設置し、各トランセクト内にあるイソコモリグモの巣穴の数と位置、平均直径(mm)を記録した。同時にトランセクトの縦断測量による地形と植生に関する情報を合わせて記録した。
 分布調査の結果、夏では汀線から20?40 mに平均直径5 mm未満の小さな巣穴が集中して出現し、汀線付近にも巣穴が出現した。秋調査では平均直径5?9 mmのやや大きな巣穴が多く出現したものの、夏に比べて巣穴数は減少し、汀線付近には巣穴は殆ど出現しなかった。一方、汀線から40 m以上離れた内陸側では巣穴数は増加しており、イソコモリグモは季節によりその分布傾向に偏りが見られた。
 イソコモリグモの分布を植生と重ねると、夏は砂浜に約3割、秋は海浜植生帯に約5割の巣穴が分布し、秋は海浜植生帯に約9割の巣穴が分布していた。夏秋には植生間で巣穴の移動が見られものの、夏秋共に汀線から60 m以内に約9割の巣穴が出現する事が明らかになった。このイソコモリグモの生息地である汀線から60 m以内の海浜地では、海水浴やRV車等の走行のようなレクリエーション利用が行われ、海岸保全地域と重なるため護岸や港湾などの開発が行われている。つまり、イソコモリグモの生息域と人間の利用域は重複しており、人間の利用や活動がイソコモリグモの分布・生息を制限している可能性が示唆された。


石狩市内で見つかったシロマダラ

徳田龍弘 (ばいかだWILD-PHOTO)

 シロマダラというヘビは本州、四国、九州及びその属島に生息している。このシロマダラは北海道内では道央及び道南でごく少数が見つかっている。しかし生きた状態で調べられることは今までなかった。2011年6月、北海道希少生物調査会(代表:寺島淳一氏)の調査により石狩市厚田区でシロマダラ成体(♀)が捕獲された。その後、筆者によりもう1個体(♂)が捕獲され、現在は両個体ともに札幌市円山動物園にて飼育管理されている。♀は捕獲時すでに妊娠しており、7月に2卵を産卵し、9月に2匹が孵化した。これによって得られた石狩原産のシロマダラ4個体の外観より確認できるデータの蓄積を行った。本州以南産のシロマダラとの比較を行いたかったが、今回の調査個体数が少ないことや、本州以南産のデータも多くないため、十分な検討を行えなかった。しかし、今回の4個体のデータの蓄積は資料的に貴重なものになった。


石狩海岸林の融雪プールと花畔砂堤列

志賀健司  (いしかり砂丘の風資料館)

 石狩湾に面した北部石狩低地帯には,海岸線と平行に2列の砂丘が存在する.海岸線に沿った石狩砂丘と,内陸寄りの紅葉山砂丘に挟まれた幅5km,長さ約30kmの地帯には,やはり海岸線と平行な,高低差1~2mの波状の凹凸地形が20~30m間隔で繰り返されており,花畔砂堤列と呼ばれている.本来100~200列あったとされる砂堤列は,農地や宅地の開発のために均されて,地形としては今ではほとんど残っていない.
 一方,石狩砂丘のすぐ内陸側には,幅およそ500mの海岸林が広がっている.人為的な改変をほとんど受けていない林内にだけは,花畔砂堤列の波状地形が現在でも明瞭に残されている.そこでは,冬の間の積雪が融解する4月中旬から5月ごろにかけて,一時的な雪解け水の水たまり「融雪プール」が,砂堤間の低地に無数に形成される.この石狩海岸林の融雪プールは体長約2cmの甲殻類キタホウネンエビの生息地となっている.プールの水量は年によって大きく変動する.雪解け直後でもまったく水体が見られない年もあれば,水深が1mを超えるような深いプールが多数形成され,夏まで水体が残るような年もある.2011年春は顕著に水量が多かった年で,大規模なプールは夏になっても干上がることなく,そのまま凍結,積雪期に至った.4年間の水位変動を観測してきた結果,水量(最大水位)の経年変化は周辺の年最大積雪量の変動とほぼ対応していることがわかった.
 2011年春に海岸林東部を中心に融雪プールの水平分布を調査した結果,プールの分布は基本的に砂堤列地形を反映しており,その分布からも花畔砂堤列の砂堤の間隔は20~30mであることが確認された.さらに,高低差は一様ではなく,100~150m間隔で高低差が大きく明瞭な砂堤間低地が4列存在することがわかった.また,1つの砂堤間低地の中でも場所によって水体の有無に顕著な偏りがあり,海岸林を切断する埠頭や放水路の周辺ではほとんどプールが形成されていないことがわかった.


石狩湾沿岸防砂林内湿地に生息するキタホウネンエビについて

濱崎眞克 (北海道大学大学院環境科学院)

 キタホウネンエビ(Eubranchipus uchidaii)は世界でも日本の北海道石狩湾沿岸地帯と青森県下北半島でしか発見されていない希少種である。この種は融雪性のホウネンエビの一種であり、春の融雪期に発生し30~60日程度の期間にうちに成熟、産卵し、夏から冬にかけての期間は耐乾、耐寒、耐酸性に優れた外殻を持つ耐久卵の形態で休眠する大型動物プランクトンである。成体の全長は10~30mm、耐久卵の直径は400μmであり、現在記録されているEubranchipus属の中で最大の卵を産卵する。
 ホウネンエビ類は発生期の成体による遊泳、休眠期の風や洪水による耐久卵の流出による短距離移動の他、鳥類の羽毛に付着若しくは耐久卵が摂食→排出される事による長距離移動によって分布地を拡大していると考えられている。そのため同一種が北米大陸の東西に渡って生息している、フランスとイランで同一の遺伝子形が見つかるなど広範囲に生息している種も多い。そのような中で孤立かつ局所的な分布に留まっているキタホウネンエビが、この地域でのみ個体群の維持に成功している経緯は興味深い課題である。
 石狩において、キタホウネンエビは防砂林内に点在する湿地に生息することで個体群を維持している。この防砂林は国有の保護林と言うことで直接の生息地破壊の危険性は低いものの、治水や風力発電をはじめとする周辺の開発により不圧地下水が融雪プールを形成するのに不十分なレベルにまで低下している地域があり、繁殖可能な地域は2002年と比べても狭くなっている。明治以来進められてきた治水工事の成功もあり、洪水による短距離分散の機会も減っているため、個体群維持の観点から見ると年々生息に不利な状況になりつつある。


北海道の鯨骨製記念物 続報と自然史的な意義

水島未記 (北海道開拓記念館)

 筆者は以前に、道南の日本海沿地域において、集落近くや寺院の境内などに残されている鯨類の骨に ついて調査を行った。これらの鯨骨は、本州以南(特に西日本)で見られる、いわゆる「鯨塚」と同様 の意味を持つものと推測された。
 鯨塚は、日本における鯨類と人との関わりを象徴するものとして古くから知られており、捕鯨者が自 ら捕獲した鯨の供養のため建てた場合、寄鯨の肉などを利用した地域の住民が供養や感謝のために残し た場合などがある(進藤 1970、吉原 1977)。大部分は石造の墓碑や供養塔の形であるが、中には鯨 骨を利用してつくられたものもあり、これを筆者は便宜上「鯨骨製記念物」と呼んでいる。
 主に現地での聞き取り調査により、大成町(現・せたな町)から小樽市までの範囲で、かつては20 か所に23(≒23個体、うち現存は12)の鯨骨製記念物があったことが確認できた(水島 2001、2002、 2003、2004)。これほど集中してみられる地域は全国でも他にない。
 本報告では、以前に報文としてまとめた鯨骨製記念物を再度紹介し、それ以降に確認できた類例につ いて報告するとともに、自然史上の意義について考察する。また、あらためて情報提供を呼びかけたい。


石狩湾に発生する上位蜃気楼の観測

大鐘卓哉  (小樽市総合博物館)

【高島おばけ】
 小樽沖の石狩湾では、遠くの景色が通常とは異なって見える「上位蜃気楼」が発生する。上位蜃気楼(以下、蜃気楼)は、上層の暖かい空気と下層の冷たい空気との境界で光が屈折するために起こる大気光学現象の一種で、いくつかの気象学的条件が重なった場合のみ発生することが知られている。この現象は、幕末の北方探検家である松浦武四郎が1846(弘化3)年に見た現象で、小樽の高島の地名をとり「高島おばけ」と地元で呼んでいた現象である。武四郎は、遠方の船や島などの対象物が大きく見え、景色が刻一刻と変わるのに驚いた様子を『西蝦夷日誌』に記している。
 筆者は1998年から石狩湾における蜃気楼の観測を行っている。観測の結果、この現象は4月から7月の間に、年10回程度しか観測されず、一般の人が見ても「すごい」と感じる規模が大きい現象は年に1回程度しか観測されない稀な現象であることが分かってきた。蜃気楼が発生した日の気象要素の分析から、その発生機構が解明されつつあり、ある程度の確度で発生の予報が可能になってきた。

【蜃気楼観測ネットワーク】
 石狩湾における蜃気楼の研究を発展させるために、小樽市総合博物館と北海道・東北蜃気楼研究会は蜃気楼観測ネットワークを構成し、協力して観測を行っている。発生が想定される4月から7月の期間において、小樽市高島に設置したデジタルカメラにより、対岸の2方向を無人でインターバル撮影している。さらに、蜃気楼発生の可能性が見込まれる日には、観測ネットワークメンバーが石狩湾岸の各所で観測を行っている。これらの観測成果により、石狩湾内における蜃気楼発生エリアを限定できる事例が多数観測され、蜃気楼発生機構のさらなる解明に寄与してきた。
 近年では、蜃気楼発生の予報期待度を事前配信し、蜃気楼観測状況をリアルタイム配信するメーリングリストの運営を行い、稀にしか発生しない蜃気楼現象を一般市民が実際に観察できるようにする試みを行っている。


道東における明治開拓以降の環境変化と森川海のつながり(予報)

鎌内宏光・仲岡雅裕
(北海道大学北方生物圏フィールド科学研究センター厚岸臨海実験所)

 近年、温暖化等の地球環境変動が生態系に与える影響の解明が課題となっている。しかし、ある生態系の長期変動は、温暖化等の地球規模の変化と同時に、土地利用改変など地域的規模での自然の変化をも反映している。北海道では開拓の進行に伴って明治以降に急激に自然環境が変化したとされており、生態系変化の原因として、地球環境変動だけでなく、開拓に伴う自然環境の変化の影響も加味する必要がある。本研究では、これらの要因に加えて、生態系間のつながり(例えば森と川、あるいは海)を考慮した、生態系の長期変動解析のための概念モデルを構築した。
 道東地域を対象として、社会制度の混乱や統計資料が確立していない明治から第二次世界大戦前までを中心に、既往の文献資料を整理した。その結果、陸域では明治あるいは江戸時代中期以降における森林伐採などの土地利用改変を定量的に推定することが可能と思われた。一方、淡水域及び沿岸海域では特に明治から大正時代の資料が乏しく既往データをもとにした推定が困難であると思われたが、数理モデルによって陸域の変化による河川への流出過程については復元可能と思われた。また、沿岸域については底泥堆積物の解析による生態系およびフラックスの復元が有効と思われた。特に道東には集水域末端である河口が閉鎖的な汽水湖となっている集水域が複数存在しており(例えば別寒辺牛川集水域の厚岸湖など)、その底泥堆積物について、1)陸域由来成分や湖内に生息した生物の炭酸カルシウムを含む殻の分析による陸域変化の推定結果の検証が可能であり、2)栄養塩含量やケイソウ殻の分析による湖内の栄養状態や生物生産の長期変化を明らかに出来るだろう。
 北海道では、明治以降の開拓による陸域の変化が、鉄道や港湾といった社会インフラの整備によって開拓が加速するという地域社会の変化と同時に、行政資料などとして詳細に記録されている。道東でも地方ごとに開拓された年代や開拓後の経緯(例えば土地利用の現況等)が異なっており、閉鎖的な河口湖を持つ集水域を比較することで、開拓の進行と自然環境への影響を解明するために適した条件を備えていると考えられる。


セグロセキレイにとって石狩川上流域は北限の安定的繁殖地

川辺百樹

セグロセキレイは日本列島の固有種

 セグロセキレイMotacilla grandis(以下,セグロと略)は日本列島の固有種である.セグロが日本列島の固有種になった要因を考察するうえで,セグロの分布限界に位置する北海道での生息実態の把握が大きな手がかりを与えるとの観点から調査を行い,砂礫川原の鳥であるセグロが北海道において普通に見られない(uncommon)のは,好適な生息地である砂礫川原が乏しいためであるとの考えにいたった.これに基づき仮説を提示した(川辺2004).それは,第四紀(およそ260万年前)以降の急速な隆起によって,日本列島に特徴的な水辺空間である砂礫川原が出現し,ここを生活の場としたセグロの祖先が固有化の道をたどった,というものである.

北海道における繁殖分布のこれまでの知見
 北海道にセグロが少ないことを初めて指摘したのは清棲(1952)であった.その後Austin and Kuroda(1953)が北海道の中央部と北部に少ないとの見解を,Yamashina(1961)が北海道北部にいないとの見解を明らかにした.これらは断片的観察に基づくものであったが、1978年に環境庁が行った鳥類繁殖地図調査(日本野鳥の会1980)によって,北海道におけるセグロの繁殖分布の概要が明らかになった.これによると,北部の宗谷地方から東部の根室地方,さらに釧路地方にいたる地域でセグロの繁殖が確認されず,セグロの繁殖分布の東限は「陸別」(5万分の1地形図名,以下同じ)であり,同じく北限は「初山別」であった.その後2002年に環境省により同様の調査が行われ,「弟子屈」で繁殖が確認され東へ拡がった.しかし「初山別」では繁殖が確認されなかった.

北海道における繁殖分布の現在の東限と北限
 自分の仮説(川辺2004)を確かなものとするため,2008年から本格的に北海道各地の河川で調査を開始した.調査はGoogle earthや空中写真などを参考に砂礫川原のある河川を探し出し,現地で生息の有無を確認するという方法で行っている.その結果,1978年の鳥類繁殖地図調査において,繁殖情報のなかった東部の茶路川など白糠丘陵に源をもつ河川や忠類川などの知床半島基部の河川にセグロの安定的繁殖地があることを確認した.つまり東限に関しては北海道島のほぼ東端の砂礫川原まで繁殖することが明らかになった.繁殖分布北限の「初山別」のどこで繁殖したか具体的情報を得ていないのだが,最も可能性の高いところは砂礫の多い礫床河川である遠別川である.そこで2008・2009・2011年にこの川で調査を行ったが,セグロを確認するに至っていない.演者自身がこれまでに確認した北限の繁殖地は岩尾内湖(N44°5′49″)である(1992年).しかしその後繁殖は確認されていない.演者が把握している現在の北限の繁殖地は旭川市永山の石狩川である.ただしこの付近の石狩川で確認されたのは1つがいにすぎず,支流の忠別川で多くの個体が観察された(2011年4月に1つがいと雄8).このようなことから,セグロの北限の安定的繁殖河川は石狩川水系の忠別川であるとみている.セグロの繁殖分布の北限を決める要因については,紙幅が尽きたので講演のなかでふれたい.なお,北海道において最も標高の高いセグロの繁殖地は,石狩川の高原大橋付近である(標高800m).


北海道のゲンゴロウ

堀 繁久 (北海道開拓記念館学芸員)

 ゲンゴロウ見たことありますか?もう、自分の子ども時代には、いわゆるゲンゴロウ(ナミゲンゴロウ)は少なくなっていて、札幌では、子供が採れる昆虫ではなく、図鑑や標本で見るだけのあこがれの虫だった。道内の分布は、基本的に平野部の水草の豊富な池に限られ、その生息地はかなり狭い。札幌市内だとほぼ絶滅に近い状況で、わずかに福移湿地や世田豊平川などで確認されている程度。ただし、道内でも石狩低地帯は、本種の生息地が残されている場所で、札幌以外の石狩市、江別市、北広島市、恵庭市、千歳市、苫小牧市、厚真町などでは、まだ見ることができる。
では、北海道にはいったい何種類のゲンゴロウが生息しているのだろうか?
 北海道で見られるゲンゴロウの種類を複数思い浮かぶ方は、かなりゲンゴロウに詳しい人に違いない。実際には、森・北山(1993)『図説日本のゲンゴロウ』には全国で117種が掲載されていて、そのうち北海道産は51種。森・北山(2002)の改定新版では、133種が掲載され、北海道産は55種になっている。増えたのは、アナバネコツブゲンゴロウ、アンガスナガケシゲンゴロウ、カラフトナガケシゲンゴロウ、オクエゾクロマメゲンゴロウの4種。それ以降も。渡島半島から発見されたトウホクナガケシゲンゴロウ(岡田、2007)。道南の小河川からホソクロマメゲンゴロウとチョウカイクロマメゲンゴロウ(Okada、2010)。最も新しいところでは、野幌森林公園を基産地として記載されたニセモンキマメゲンゴロウが特筆される(Okada、2011)。この種は、堀(2002)が、北海道開拓記念館紀要に「野幌森林公園のゲンゴロウ相」としてとりまとめた中でモンキマメゲンゴロウとして記録したもの。当時は斑紋が大きな個体変異と勝手に解釈してそのままスルーしてしまった。当時北大水産学部大学院にいた岡田亮平さんにより新種記載されたものである。これで、北海道のゲンゴロウは59種となった。あと1種で60種となるのだが、果たしてそれは何時確認されるのか、今からワクワクしている。
 ゲンゴロウ類は各地で減少してきており、北海道レッドデータブック2001には、18種が希少種(R)として掲載されている。
 北海道のゲンゴロウは国内ではこの島のみの分布という北方系の種が多く生息し、その生息環境も高山から湿原、流水から池や沼などの止水、様々な水域に特徴的に生息しており、水辺の自然度を示す環境指標種としても期待できる。この機会に北海道に生息するゲンゴロウに興味を持って、この夏は是非、川や池に入って、この小さな水生甲虫と対面してみていただきたい。


博物館標本とバイオミメティクス

大原昌宏 (北海道大学総合博物館)

 バイミメティクス(生物規範工学)は、生物の構造や機能を模倣し、新しい工学的技術を開発する分野である。近年、「カの口を模倣した痛くない注射針」「サメの皮膚を模倣した水抵抗の少ない水着」「ヤモリの指先を模倣した粘着テープ」など、さまざまな新技術と商品開発がなされ注目されている。
 模倣の元となる生物が体系的に集められ保管されているのは博物館であり、博物館の膨大な生物標本は、分類、整理され、写真に撮られデータベースとしてデジタル情報のタグをつけられている。しかし、これらの標本のデータや写真は生物学分野(分類学、形態学、生物多様性保全)の使用に限られ、他分野のデータ利用はきわめて限られたものであった。
 工学の一分野であるバイオミメティクスは、多くの生物種について、形態、構造、動き、機能を知り比較する必要がある。現在、北海道大学総合博物館では、バイオミメティクス関係の工学系研究者向けに、開発の手がかりとなる生物情報(画像など)を、効率的に提示する方法を模索している。その試みとして、「微小昆虫類の表面構造SEM 画像データベースの構築」を行った。
 本講演では、(1)現在までに撮影されたSEM画像をデータベースとして整理し、工学者へ提示する意義と手法、(2)博物館を舞台とした生物学と工学の研究者間の学術交流を行う利点、について論ずる。


2010年度 研究会(大会)


日時
3月13日 日曜日 9時半~15時半 (予定)

場所
北海道庁赤レンガ庁舎2号会議室
札幌市中央区北3条西6丁目

申し込み
参加申し込みは3月6日まで。ただし発表を希望する方はその旨を2月20日までに。
 以下のことを書いてメールしてください。 ⇒ 事務局
  ・所属・メールアドレス・連絡先(電話)
  ・懇親会参加の有無、発表の有無
   発表者は要旨を配布資料、ウェブに掲載しますので、
   3/6までにはA4・1枚程度を出していただきます。

大会参加費
500円(ほっかいどう学の会会員は免除)

共催
ほっかいどう学の会(自然環境)、北海道教育委員会


スケジュール(予定)


9:30~開会 会長挨拶など
9:45-10:35ほっかいどう学の会・講演会
「大雪山系の自然」 川辺百樹(北海道自然史研究会会長)
10:40~12:00,
13:00~15:30
研究・事例発表会
15:30~16:00自然史研究会の今後について(総会)
 研究会の今後、役員などについて話します。
 現会員でない方もご参加ください(入会してください)。
18:00~懇親会(えこひいき大同生命ビル店 会費3,500、学生1,000(予定))
中央区北3西3大同生命ビルB1F 011-251-1682
 
※今回はほっかいどう学検定合格者で構成している会との共催となります。
※今回は前回より広い会場を借りれますが、共催なのでやや混み合うかもしれません。会場でのご協力お願いします。
※学生さんの研究成果、施設・機関の活動事例紹介などもお待ちしています。

日本生態学会第58回大会 自由集会のお知らせ

2011年3月8日開催

自由集会W05
「北海道の自然史研究の現場はどうなっているか?北海道自然史研究会の取り組みと生態学」


日時
3月8日(火曜日) 17:00~19:00

場所
札幌コンベンションセンター E会場
〒003-0006 札幌市白石区東札幌6条1丁目1-1

企画者
持田誠・渡辺修(北海道自然史研究会)

 この春に札幌市で開催される日本生態学会で、北海道自然史研究会では自由集会を開催します。自由集会は、非学会員でも参加でき、参加費は不要です。


要旨
 北海道は本州とは異なる生物地理区に属し、特徴的な生物相や自然景観を呈する、興味深い自然史研究のフィールドとして、古くから多くの研究者の研究対象とされてきた。一方、こうした自然史研究により収集された標本の集積拠点として、また生態学研究の拠点として、道内の博物館は永年、研究活動を支援し続けてきた。
 北海道自然史研究会は、こうした自然史博物館の活動を支えてきた学芸員を中心に、北海道内の自然史に関するネットワークづくりのため、1993年に立ち上げられた。現在、学芸員だけでなく、大学関係者、環境調査事業者、一般市民など、広く北海道の自然に関心のある者が集い、講演会や情報ネットワーク、普及事業などを実施している。北海道自然史研究会は、個々の地域博物館では現実的に困難な事業を支援するため、
 1)道内博物館紀要の電子化・データベース化による、地域自然史研究の情報発信
 2)教材用冊子(パンフ)やペーパークラフトなどの作成による、自然史研究の普及
 3)研究誌の創刊や講演会による、市民研究者などの発表の場の確保と地域への研究成果の還元と蓄積
 に取り組んでいる。今回の自由集会では、北海道の自然史研究の「現場」の実状を振り返り、北海道自然史研究会が目指す新たなネットワーク事業を提言して広く参画を呼び掛けるとともに、地域自然史研究と生態学との関わりについて考える。また、北海道の「外」から見た、北海道の自然史研究の姿について、率直な批判や提言を集めることを目的に企画したものである。多くの自然史研究者が集い、活発な意見交換が進むことを期待したい。

報告者
1.宇仁義和(東京農業大学生物産業学部博物館情報学研究室)
  「自然史研究の現場を抱える博物館の課題」
  ・地方博物館が果たしてきた役割
  ・地方博物館の緊急課題

2.辻ねむ(標茶町郷土館)
  「三人寄れば文殊の知恵!みんなで探る、標茶町天然記念物ベニバナヤマシャクヤクの生態」
  ・標茶町とベニバナヤマシャクヤク
  ・調査における協力体制の特徴
  ・活動全体の問題点

3.渡辺修(北海道自然史研究会理事/さっぽろ自然調査館)
  「北海道自然史研究会の取り組み -情報の集積と連携-
  ・研究報告の現状(分野、デジタル化、ウェブでの出回り状態)
  ・今回のデータ化事業について
  ・それによるウェブでの状態の変化、検索の状況

4.道外の自然史研究者から  三橋弘宗(兵庫県立人と自然の博物館) 

司会進行:持田誠(北海道自然史研究会理事/帯広百年記念館)

 各報告は1人20分を予定しています。その他、会場に簡単な展示コーナーを作って、道内の自然史活動のアピールになると良いものを並べようと思っています。

関連集会


 この自由集会の翌日には、企画集会「博物館の生態学7」が開催されます。こちらは参加費が必要ですが、関心ある方は是非ご参加ください。

 こちらのサイトで内容が紹介されています。
 ⇒ 「togetter:博物館の生態学7-生物多様性保全のシンクタンクを目指してまとめ

企画集会T10
「博物館の生態学7 -生物多様性保全のシンクタンクを目指して-」


日時:3月9日(水曜日) 9:30~11:30

場所:札幌コンベンションセンター E会場

要旨
 自然環境や生物多様性の保全に対する民意が成熟しつつある今日,様々な課題や事業に生態学の研究者が携わる場面は増える一方である.研究者に期待される内容は,野生生物の保護や外来種対策,地域の自然環境に関する啓発などの課題解決から,レッドリストの作成や生物多様性地域戦略の策定などの政策提案まで様々である.生物多様性基本法による地域戦略策定の努力義務,COP10の開催などの後押しもあり,これらシンクタンク事業の展開に生態学研究者の役割は重要度を増すことが予測される.自治体や市民から,大学,研究機関,博物館などに寄せられる要望には,各機関に所属する個々の研究者が対応することになるが,こうしたシンクタンクとしての活動を機関の重要な事業として位置付けたり,あるいは組織化したりする動きが博物館にみられる.本集会では,博物館をはじめとして,生態学の研究者が携わったシンクタンク事業を紹介しながら,研究者や研究機関が社会にもたらすことのできた効果について検証したい.その上で,今後,シンクタンクとして自治体や企業,市民に対峙するときの望ましい関係性や望まれるスキルについて考察したい.

コメンテータ:梶 光一(東京農工大学)

企画者:井上雅仁(島根県立三瓶自然館), 橋本佳延(兵庫県立人と自然の博物館)

[T10-1]
趣旨説明-博物館に舞い込む生物多様性保全の相談ごと-
井上雅仁(島根県立三瓶自然館)

[T10-2]
社会と生態学の接点に身を置く博物館のシンクタンク機能-人と自然の博物館の事例-
橋本佳延(兵庫県立人と自然の博物館)

[T10-3]
千葉県の生物多様性保全関連施策における千葉県生物多様性センターの役割-とくにイノシシ,シカ,サルなどの保護管理施策を中心に-
浅田正彦(千葉県生物多様性センター/千葉県立中央博物館)

[T10-4]
生物多様性関連保全施策において地域の小規模博物館・研究者に期待される役割-北海道における現状と可能性-
渡辺 修(さっぽろ自然調査館)

 ※終了後に封入標本などによる生態学展示の事例デモをやる予定。

2009年度 研究会(大会)


日時
2月27日土曜日 13時~18時

場所
札幌市博物館活動センター
札幌市中央区北1条西9丁目リンケージプラザ5階
TEL:011-200-5002  FAX:011-200-5003

アクセス
公共交通機関をご利用ください。
 地下鉄東西線「西11丁目」駅4番出口から徒歩5分。
 市電「西8丁目または中央区役所前」電停から徒歩8分。
 バス「北1条西7丁目」バス停から徒歩3分。

申し込み
参加申し込みは2月25日まで。ただし発表希望者は2月15日まで。
 以下のことを書いてメールしてください。
  ・所属・メールアドレス・連絡先(電話)
  ・懇親会参加の有無、発表の有無

共催
札幌市博物館活動センター

運営事務局
事務局、古沢(札幌市)、山崎(札幌市)、持田(北大博物館)

スケジュール(予定)


12:30~受付
13:00~開会の挨拶
13:10~講演 保田信紀 「大雪山の高山昆虫」
長年、層雲峡博物館・ビジターセンターにおいて高山帯の昆虫類の研究をされてきて、当研究会会長でもある保田さんに話をしていただきます。
14:10~研究・事例発表会
※道内の自然史に関する発表です。10件の発表がありました。
17:50~総会
研究会の今後、役員などについて話します。現会員でない方もご参加ください(入会してください)。
19:00~懇親会
 会費3500円(学生1000円)程度で予定しています。
 会場:魚民 西11丁目駅前店
     中央区大通西9-3-33 キタコ-センタ-ビルディング地下1階

発表一覧


午前 9:00~12:00
志賀健司
石狩浜でタコブネ発見-最北の漂着記録-

栗原憲一ほか
北海道十勝郡浦幌町に分布する根室層群川流布層中から産出したアンモナイト類と白亜紀/古第三紀境界の大量絶滅(予察)

堀 繁久ほか
アライグマによるエゾサンショウウオとエゾアカガエルの捕食

相澤あゆみほか
洞爺湖における特定外来生物ウチダザリガニの効果的な防除体制の設立を目指して

斎藤和範ほか
旭川市近郊でみられる国内外来種アズマヒキガエルの分布状況と防除活動の取り組み

小宮山英重
滝を遡上するアメマスの生態

川辺百樹
ジョウビタキの日本列島への進出

午後 15:30~17:10
大原昌宏ほか
札幌圏における実物教育ネットワークの展開 ~CISE ネットワークについて~

植木玲一
ヒグマを教材とした教育実践 ~日本クマネットワーク北海道地区の事例など~

三橋弘宗(兵庫県立人と自然の博物館)・佐久間大輔(大阪市立自然史博物館)
NPO法人西日本自然史系博物館ネットワークの活動について

要 旨

石狩浜でタコブネ発見 -最北の漂着記録-

志賀健司 (いしかり砂丘の風資料館)

 ココヤシ果実やアオイガイ殻など、熱帯~温帯海域、もしくはその海岸に生息する生物等が暖流によって高緯度地域に運ばれ、海岸に漂着することがある。石狩湾は日本海を北上する対馬暖流の影響下にあるため、それら「暖流系漂着物」が時折確認される。特に2005年~2007年、2010年には数多くの暖流系漂着物が湾奥の石狩浜で確認されている(志賀・伊藤、2011など)。そして2012年秋、石狩浜および周辺の砂浜において初めて、タコブネArgonauta hians殻の漂着が確認された。
 タコブネはカイダコ科の浮遊性のタコで、世界中の熱帯~温帯の海洋表層に生息する。メスは産卵・孵化のために殻を作り、自身もその内側に入って生活する。殻は飴色をした薄い石灰質で、殻長は大きいもので8~9cmに達する。
 タコブネと同属で、やはり熱帯-温帯の海に生息するアオイガイArgonauta argoは、本州・九州の日本海側の海岸でしばしば大量漂着が見られ、年によっては北海道の日本海側でも大量に漂着することがある(鈴木、2006;志賀、2007など)。それに対してタコブネは、本州でも大量に漂着することはなく(林、2009)、北海道で発見されることは極めて稀である。著者の知る限り、過去に道南(渡島地方~後志地方)の日本海側で漂着が2例、日高地方沖での生体の捕獲が1例(1989年10月、殻長81mm)知られている(徳山ほか、1990)のみである。その中で最北(※対馬暖流の最下流側という意味であり必ずしも緯度で最北ではない)となるのは、2010年10月7日に小樽市塩谷で漂着が発見された個体(殻長34mm)であった(山本亜生、私信)。
 2012年秋、石狩浜周辺で発見されたタコブネは、次の4例である。(1)10月25日:望来海岸(殻長不明)、(2)10月29日:小樽大浜(殻長45mm)、(3)11月8日:石狩浜(殻長79mm)、(4)11月10日:石狩浜(殻長50mm)。今回の漂着は、日本列島におけるタコブネ漂着の最北の記録であろう。同年秋の石狩浜では、タコブネ以外にも、ココヤシ果実やギンカクラゲなど、例年はほとんど見られない暖流系漂着物が多数発見された。アオイガイもこれまで最多の漂着数であった2010年に匹敵する規模の大量漂着が見られた。これらの現象の直接の原因は、日本海北部の海面水温の異常な上昇にあると考えられる。

引用文献
林重雄,2009.福井県北部沿岸におけるタコブネ(カイダコ科)の漂着.漂着物学会誌7:1-4.
志賀健司,2007.北海道石狩湾岸におけるアオイガイの大量漂着.漂着物学会誌5:39-44.
志賀健司・伊藤静孝,2011.2005年~2009年の石狩湾沿岸におけるアオイガイ漂着.いしかり砂丘の風資料館紀要1:13-19.
鈴木明彦,2006.北海道石狩浜へのアオイガイの漂着.ちりぼたん37:17-20.
徳山秀雄・本田義啓・林浩之・吉田英雄,1990.日高沖の海上から得られた貝殻に入ったタコについて.釧路水試だより63:16-17.


北海道十勝郡浦幌町に分布する根室層群川活平層中から産出したアンモナイト類と白亜紀/古第三紀境界の大量絶滅(予察)

栗原憲一(三笠市立博物館)・工藤直樹(早稲田大学)・平野弘道(早稲田大学)・
佐藤芳雄(浦幌町立博物館)・澤村 寛(足寄動物化石博物館)

 約6600万年前の白亜紀/古第三紀境界(以下、K/Pg境界)は、白亜紀最大の絶滅事変が起こった時期である。顕生累代の5大大量絶滅の1つとして認識され、絶滅は恐竜(鳥類を除く)やアンモナイト類など様々な生物群に及んだ。主な原因としては、直径十kmにもおよぶ巨大な隕石が地球表層に衝突したことによる急激な環境変動が挙げられている。
 本邦では、北海道十勝郡浦幌町に分布する根室層群活平層中に、国内唯一のK/Pg境界を含む地層が連続的に分布している事が知られている。これまで、微化石(有孔虫類、渦鞭毛藻類、花粉・胞子類)によるK/Pg境界前後の群集変化の研究や化学分析による研究が行われており、K/Pg境界における生物相の変化と巨大隕石衝突後の大規模森林火災を示唆する熱的環境異変の存在が示されている。
 昨年(2012年)8月、本地域のK/Pg境界直下の地層からアンモナイト類が産出した(図1)。本地域ではこれまでアンモナイト類の産出報告はなく、現状、絶滅前の最後のアンモナイト類であり、北海道を始めとする北西太平洋地域では、どのようなアンモナイト類が絶滅直前まで生息していたのかを知る貴重な資料であると言える。
 そこで本発表では、今回発見されたアンモナイト類に関する産出報告とその意義について予察的な議論を行う。さらに、本地域のK/Pg境界前後における炭素安定同位体比の変動に関する研究も併せて行っているため、その報告も行う。
 なお、今回のアンモナイト類が発見されたいきさつは、浦幌町立博物館が実施した6600万年前の地層を観察する講座で“偶然”発見されたものである。町立博物館では、6600万年前の地層が浦幌町にしか知られていないことを町の宝として考え、毎年、子供たちや町民を対象に現地観察会を開催し、その意義を伝えている。継続的にそれが行われていなければ、間違いなく今回の“偶然”の発見はなかっただろう。貴重な標本を発見する確率は誰にとっても同じで非常に低いが、何度も足を運べばそれだけ発見されるチャンスが増えるからである。まさに、“偶然”を“必然”の発見とした出来事であり、地道な継続活動こそが自然史を探求する上で重要である事を改めて実感した。


アライグマによるエゾサンショウウオとエゾアカガエルの捕食

堀 繁久(北海道開拓記念館)・植木玲一(札幌啓成高校)・
札幌啓成高校科学部フィールド班

 2000年春に、野幌森林公園内の小河川の砂防堰堤下のエゾサンショウウオ産卵場所で、産卵に集まったエゾサンショウウオの動物による被食痕が見つかった(堀・水島、2002)。砂防堰堤の下に、25本もの食い残されていたエゾサンショウウオの尾部が見つかり、そのうち4本の尾については、動いてた。現場に残された足跡やツメ跡などの状況証拠から、この被食痕はアライグマによるものと推測して、アライグマによるエゾサンショウウオ被食痕として記録を残した。しかし、実際の捕食現場の確認が課題として残されたままだった。
 2009年春に野幌森林公園の中央線沿いの遊歩道脇の落ち葉の堆積した水たまりで水生昆虫調査中に、除けた落ち葉の下から時間経過したエゾサンショウウオ尾部が3個体分発見された。この尾部のみを残す捕食はかなり広範囲で行われており、落ち葉が多い場所ではその食害残渣が落ち葉の下に沈み込み、埋もれてしまうために陸から観察しても見えないことが判明した。
 一方、2012年春、野幌自然ふれあい交流館前の雨水調整池でエゾアカガエルの産卵の観察会の下見をした際に、残雪の上に残されたエゾアカガエルの産卵前の卵のうが見つかった。卵のうは、残雪上に3卵、水中からも3卵発見された。何者かによって抱卵したメスカエルが捕食された際に、食べ残した残渣のようであるが、捕食者は不明である。
 2012年春、エゾサンショウウオとエゾアカガエルの捕食者を確認するために、赤外線センサーによる自動撮影カメラによる調査を開始した。調査の結果、映像記録によるアライグマの両生類の捕食状況があきらかになった。捕食の際、エゾサンショウウオに関しては、両手を器用につかって少しずつ食いちぎるように時間をかけて食い、最後に尾部を残した。それに対し、エゾアカガエルの方は、頭から丸のみして食う場面が記録された。
 アライグマは水中に手を突っ込んで、餌となる生き物を手探りで探して捕食することが明らかになった。他の捕食者が真似できない水中に隠れている両生類の手探りによる探索・捕獲手法ができるため、野幌森林公園のような孤立林では、アライグマによる捕食が個体群へ及ぼす影響が心配される。


洞爺湖における特定外来生物ウチダザリガニの効果的な防除体制の設立を目指して

相澤あゆみ(酪農学園大学野生動物保護管理学研究室),
室田欣弘(UWクリーンレイク洞爺湖),
三松靖志(壮瞥町:洞爺湖生物多様性協議会事務局),
鈴木清隆(洞爺湖町),阿部隆一(自然公園財団昭和新山支部),
戸崎良美(公財日本生態系協会),
吉田剛司(酪農学園大学野生動物保護管理学研究室)

1.はじめに
 特定外来生物ウチダザリガニは,北米原産の冷水性のザリガニで,全長15cm程度に達する大型種である.北海道の各地でも定着が確認されており,捕食や競合による様々な生態系への悪影響を及ぼすことが深刻な問題となっている.洞爺湖では2005年にウチダザリガニの生息が確認された.本発表では2005~2012年度のウチダザリガニの捕獲データをまとめ,これまでのウチダザリガニ防除の経緯と今後の課題について考察する.

2.防除体制
 洞爺湖では2005年に防除活動が始まった.2008年から洞爺湖町,壮瞥町,関係団体が構成メンバーである「洞爺湖生物多様性保全協議会」が発足し,地域と酪農学園大学が連携したモニタリングを実施している.2009年からは壮瞥町が,2010年からは洞爺湖町も緊急雇用創出推進事業を採用して防除活動を実施しており,2010年以降は全体の90%以上を緊急雇用創出推進事業によって捕獲した.また,地域住民への環境教育の実践やボランティアダイバーの受け入れも積極的に実施している.

3.考察
 2010年には全道のウチダザリガニ捕獲数の約65%を洞爺湖での駆除が占め,実績をあげた.2011年,2012年と捕獲数が減少しているが,捕獲個体が小型化しているためカゴ罠での捕獲が困難になっていることや,カゴ罠の設置数の減少による影響だと考えられる.また緊急雇用創出推進事業は新たに人員が毎年採用されるため,捕獲に慣れた作業者が継続して捕獲を実施できないデメリットがある.

4.今後の課題
 現在の捕獲体制は継続して実施できるものではなく緊急雇用創出推進事業での対応には限界がある.今後は小型化した個体の効率的な捕獲手法の検討や,国と道,さらに市町村が連携し継続できる捕獲体制づくりが課題となる.また2013年からはウチダザリガニを外来生物対策に関する教材とする修学旅行生の受け入れも計画されており,観光地としての洞爺湖で普及啓発活動の手法も検討していく必要がある.


旭川市近郊でみられる国内外来種アズマヒキガエルの分布状況と防除活動の取り組み

斎藤和範(旭川大学地域研)・青田貴之(旭川市)・八谷和彦(道拓殖短大)・
中川裕樹(道拓殖短大)・ざりがに探偵団ビッキーズ(鷹栖町)

 2007~2012年にかけて、旭川市神居古潭から石狩川上流方向の旭川市街地、下流方向の深川市・妹背牛町・秩父別町・滝川市、砂川市、江別市まで、内大部川上流方向の芦別市まで、春~初冬にかけて広域分布調査を行った。またこれら範囲で4月末~5月において産卵池調査を行った。
 防除活動は、旭川市富沢・台場東・神居地区の産卵池において(各地区1箇所づつ)、毎年5月から6月始めに、毎日日没後2~3時間程度たも網及び徒手によって成体及び卵塊を駆除、夏~秋には数日づつ、日没後2時間程度、富沢地区の産卵池周辺及びカムイの杜公園において、亜成体・若齢個体を駆除を行った。
 分布は、初めて斎藤らによって報告された1995年当時と比べ分布は拡大し、調査地全域および札幌市や石狩市で確認、産卵池もこれら地域で多数確認された。上流域への分布拡大は、人為的な成体・卵塊の運搬・放逐や自然分散が考えられるが拡大速度は遅い。下流域へは石狩川による流下が確認され、急速に分布が拡大。
 また、農業用幹線水路により、北空知頭首工から空知幹線・深川幹線、神竜頭首工から北幹線などで、滝川市・秩父別町・妹背牛町の水田地帯に分布が急速に拡大。防除は旭川市富沢・台場東・神居・神居古潭で行っており、産卵期に産卵池周辺に行うのが効果的。分布拡大防止には、産卵池の消失、高密度域における社会教育や普及啓発看板などによる周知だけでなく、学校教育における外来種学習が緊急に必要である。


滝を遡上するアメマスの生態

小宮山英重(野生鮭研究所)

 2010年から2012年までの3年間、北海道東部のオホーツク海にそそぐ斜里川の上流域と中流域の境付近に位置する落差約2.5mの滝(通称:さくらの滝)の右岸から、その滝の上流へ遡上しようと滝に向かって空中を飛翔するサケ科魚類の行動を観察した。当滝の形状は、流下する川水が滝の段差の部分で、川底を伝って流下する部分はなく、すべて空中を飛翔して滝つぼに落下するという特徴を持っている。調査時期は、5月~9月の間で、調査時間は、目視可能な昼間の9:00~19:00の間に適宜実施した。滝周辺はヒグマの生活圏であるため夜間は調査を行わなかった。滝に向かって空中を飛翔する魚類をデジタルビデオカメラおよびデジタルスチルカメラで撮影し、得られた映像から魚種の判定と各種ごとの個体識別、および個体別飛翔コースの判定をおこなった。また、滝の遡上に成功した魚種別個体数は主に目視で、補助的に動画映像で計数した。遡上に成功した個体のスチル写真の撮影に成功した場合は、過去のスチル写真記録からその個体の遡上努力回数並びにその日数を計数した。
 飛翔を記録できた魚種は、個体数の多い順にサクラマス、アメマス、オショロコマの3種だった。3種とも降海型および河川残留型の二型が飛翔していた。滝の遡上に成功した魚種は、魚体の大きなサクラマス降海型、アメマス降海型の2種のみであった。
 今回はそのうち、アメマスの行動特性について、2012年の結果を中心にして報告する。アメマスの飛翔期間は6月中旬~9月中旬まで記録された。1日当たりの飛翔個体数および旬別滝遡上成功数は、ともにアメマスの産卵が始まる30~40日前にあたる8月中旬が最も多かった。個体識別は、空中を飛翔する個体のスチル写真を分析し、体側の斑紋(白斑)のサイズ、斑紋の配列パターン、傷、体各部の特徴的な形などで判定した。同一個体の1日当たり飛翔回数の最多は19回(/8時間)を、最多飛翔日数は55日(初飛翔記録日2012年6月19日~遡上成功日8月12日)を記録した。記録年別飛翔個体数は、2010年18個体、2011年15個体、2012年は17個体であった。複数年記録できた個体は7個体で、内訳は飛翔3年目4個体、2年目3個体であった。また、各個体の飛翔コースは、複数年および単年記録個体ともに川幅約24mの中から、個体ごとに独特のコースを選定していた。様々なコースをランダムに飛翔する個体は観察できなかった。以上の結果からアメマスは数メートル単位の精度で位置を記憶する能力があると推定された。
 当滝で魚類の飛翔が観察できた水温条件は、9.2℃以上であった。アメマスの場合、飛翔が観察できた最低水温は、12.3℃であった。また、2012年に遡上成功した6個体の成功時の水温は、平均16.1℃±1.44(範囲14.3℃~18.6℃)であった(1012年の調査期間中の最高水温は18.6℃)。また、遡上が成功する確率の高い時間帯は、1日の最高水温を記録する14時前後から夕方までの間であった。当河川のアメマスにとって約2.5mの落差は、運動能力が高まる高水温のときに遡上が可能となる、移動が困難な障壁と考えられた。


ジョウビタキの日本列島への進出

川辺百樹

 昨年6月,上川町でジョウビタキPhoenicurus auroreus auroreusの繁殖が確認された(北海道新聞2012年6月8日付).これは日本列島での4例目の繁殖記録であった.なぜ,ジョウビタキは日本列島で繁殖するようになったのだろうか.今後,日本列島において繁殖分布域を拡大するのだろうか.

ジョウビタキはどんな鳥か
 ジョウビタキは,ユーラシア大陸の東部,バイカル湖からアムール川河口,沿海州,中国東北区,朝鮮半島,中国南西部に至る地域で繁殖し,本州以南の日本列島や中国南部で越冬する.本州以南の雪の少ない地域ではお馴染みの冬鳥である.全長約14.5cmと,スズメとほぼ同じサイズだが,跗蹠が長く,体型はノビタキと類似する.長い跗蹠は地上での活動に適応しているとみられる.ジョウビタキ属は林地や岩のあるところを生息地とする昆虫食の小鳥で,ユーラシア大陸に10種が生息する(残り1種が北アフリカに生息).

日本列島での繁殖例
 糠平:1983年に繁殖.巣は古い建物の内部の棚板の上につくられ,親鳥は煙突の開口部から出入りした.5羽のヒナが巣立った.白雲岳:1999年に山頂の岩塊堆積地の岩と岩の空隙に餌を運ぶのが観察された.長野県富士見町:2010年に別荘地の林で巣立ちヒナへの給餌が観察された.上川町:2012年に家屋の屋根裏で営巣.

日本列島進出の背景
 ジョウビタキの本来の生息地は,亜高山の疎林,河畔の茂み,低木林であったと考えられる(Dement'ev & Gladkov et al 1954,del Hoyo 2005)が,現在は人家周辺でも繁殖している(パノフ1973,Knystautas1993,ナザロフ2004).朝鮮半島では,大都市でも繁殖する(del Hoyo 2005)が,40年前には山地の森林の鳥とされていた(Gore and Pyong-Oh1971).つまり朝鮮半島では人為環境に進出したのはそれほど昔のことではないようである.人為環境への進出を果たしたジョウビタキは大陸で生息密度を高め,非定着個体(若い個体)を繁殖域の周辺に押し出していると推測される.1983年以降の日本列島での繁殖個体の出現は,本種の大陸における繁殖分布拡大の余波と見ることができるだろう.

今後の動向
 糠平では1983年に繁殖したが,その前年に独身雄が滞在し囀り続けていた.また繁殖翌年の1984年には繁殖に至らなかったが,ペアーで滞在した.1994年と2003年に雄が繁殖期に滞在し,2010年に雄が繁殖期に出現した.上川町で繁殖した2012年には糠平でも4月中旬から5月下旬まで雄1羽が滞在し囀り続けた.このようにジョウビタキのパイオニア個体が30年ほど前から途切れ途切れながらも日本列島に出現していたとみられる.本種の大陸での個体密度がさら高まれば,日本列島への進出個体も増加し,日本列島での繁殖分布域の拡大が実現することになるだろう.


札幌圏における実物教育ネットワークの展開 ~CISEネットワークについて~

大原昌宏・菊田 融(北海道大学総合博物館)

 北海道大学では、2012年7月より、JST事業「科学系博物館・図書館の連携による実物科学教育の推進〜CISE(Community for Intermediation of Science Education)ネットの構築〜」(JST科学技術コミュニケーション推進事業「ネットワーク形成地域型」)を実施している。本事業は、北大総合博物館がネットワークの中心となり(提案・運営機関)、札幌周辺の4自治体(札幌市,小樽市,石狩市,北広島市)と連携し(連携自治体)、各自治体にある博物館・科学館・動物園・水族館などの教育施設が参加することで(参加機関)、地域住民への実物科学教育を進めるネットワーク(CISEネット)を構築する事業。

 CISEネットでは、「実物科学教育」のための人材養成・教材開発を、参加機関と連携しながら推進していく予定である。人材養成は、今まで北大総合博物館が進めてきたパラタクソノミスト養成講座を地域博物館などに広げることで、地域における実物科学教育に携わる人材の養成を進める。教材開発は、地域の特色を大切にしながら、参加機関が協働し多面的な実物科学教育を行う「テーリング・システム教育」を実施する。具体的には、動物園のクマの前で、博物館のヒグマ骨格標本を使って解説をする、科学館の学芸員が水族館のペンギンの前で泳ぎ方の物理法則を解説するなど、大学の研究者や地域博物館の学芸員や飼育員・司書などの職員が協同しながら、教材コンテンツを開発する。2012年度は「ヒグマ」、「サケ」、「恐竜」、「セミ」などの教材を開発するワークキンググループが教材開発を進めている。

 CISEネットが構築されることによって、従来連携が弱かった博物館・科学館・動物園・水族館・図書館・公民館などの教育施設の専門家の交流が始まった。地域の自然環境を反映させた「実物科学教育」が地域住民に提供される。開発された教材は、地域の施設を通じて社会教育の現場で活用されるだけでなく、学校教育の現場でも活用が期待される予定である。今まで個々の施設だけ進められてきた個別の事業が、地域教育施設間で共有可能となり、地域教育施設の活性化につながることが、CISEネットワークに期待されている。


ヒグマを教材とした教育実践 ~日本クマネットワーク北海道地区の事例など~

植木玲一(北海道札幌啓成高等学校)

 日本クマネットワーク(JBN)北海道地区普及啓発事業係(北海道大学獣医学部坪田教授代表,筆者を含め5名のメンバー)では,2008~09年に,現存する日本最大の野生の陸生動物であるヒグマ(Ursus arctos)を教材化し,環境教育プログラムを作成した(地球環境基金からの支援による.知床財団の先行実践を参考).プログラムの目的は,五感を用いた教材により,ヒグマを科学的に理解させ,ヒグマとの共生の意識を高めることとした.以下に,作成した主な教材を挙げる.①ヒグマなめし皮(オス亜成獣・オス成獣)②ヒグマ前後足剥製③ヒグマ頭骨④他の肉食獣頭骨⑤草食獣頭骨⑥ヒグマフン各種⑦新生子ぬいぐるみ⑧ヒグマの歯型つき空き缶⑨札幌周辺地図

 また教材を利用する授業(トランクレッスンと呼ぶ)プログラム指導案を作成し,ティーチャーズガイドとした.プログラム実践は,2009年に計13回,一般の方など344名に,札幌市立円山動物園を中心として行った.1回の実践は30分程度で,事前事後にアンケート調査を行った.アンケートから,受講者は,ヒグマは頭がいいというイメージを持ち共感するようになったこと,ヒグマに対する科学的な理解が増したこと,ヒグマとの共生の意識が高くなったことなどが明らかになった.これら教材とティーチャーズガイドをトランクに詰め無料で貸し出しているので,自然史研究会の方にご活用いただけたら幸いである.

 他,野外でのヒグマ教育の可能性について論じる.



発表一覧

 講演 川辺百樹 大雪山系の自然

 山本ひとみ JICA研修員と学んだ霧多布湿原の住民参加型への取り組み
 樫田幸一 ほっかいどう学 “学ぶこと、伝えること”
 堀 繁久 北海道のハンミョウとその生息状況
 齋藤和範 外来生物と多様性の保全 -特定外来種ウチダザリガニの現状を例に-
 浅川満彦 動物学標本の入手および作製時等に留意すべき感染病原体とその対策の概要
 小宮山英重 北海道のヒグマの危機管理能力
 桑山 崇 北海道産ハツカネズミの染色体に刻まれた歴史
 栗原憲一 北海道に記録された、過去の温室地球における生物の変遷史
 志賀健司・伊藤静孝 2005年〜2010年の石狩湾沿岸におけるアオイガイの大量漂着
 大原昌宏 パラタクソノミスト養成講座ネットワークについて
 渡辺 修  自然史研究会の研究報告データベースの取り組み

要 旨


大雪山系の自然

川辺百樹(元ひがし大雪博物館)

1.北海道の屋根の誕生
 近年の放射年代測定を用いた研究により,大雪山系の火山活動史が具体的に明らかになってきました.300万年前頃に周辺部の安足間山・キトウシ山付近で,200~100万年前に北大雪・クマネシリ山・大麓山・ナイタイ山・糠平温泉山などで大規模な火山活動がありました. 100万年前から現在の主稜線を形成する地域で火山活動がはじまり,今日の大雪山系の骨格が形成されました(忠別岳~高根が原110~90万年前,五色が原100~70万年前,沼の原60~40万年前,富良野岳~オプタテシケ山90~10万年前,化雲岳30~数万年前,愛別岳~黒岳~白雲岳30~10万年前,二ペソツ山・古期然別火山40~10万年前).数万年前にお鉢平・旭岳・トムラウシ山・新期然別火山・東大雪丸山・新期十勝岳(3000年前)で火山活動がはじまり,十勝岳・旭岳・東大雪丸山ではいまも活動が続いています.このように大雪山系の主稜線は100万年前以降の度重なる火山活動によって出現しました.


2.北極圏に近い気候環境と寒冷地形
 白雲岳の2000m地点での気温測定(1987-89年)の結果,年平均気温が-5.1℃,7月の平均気温が10.5℃であることが明らかになりました.この年平均気温は北緯65度のアラスカ中部に相当します.7月の平均気温が10℃以下のところを北極圏とする定義に従うと,大雪山系の高山部は北極圏に近い気候環境下にあるといえます.また,多雪地帯であるとともに強風地帯であることが大雪山系の特徴です.北極圏ではポリゴン(多角形土)やピンゴといった地形がみられますが、大雪山系の山頂部にも巨大多角形土・多角形土・パルサ・アースハンモックなどの寒冷地形(周氷河地形)があります.大雪山系の高山部は,わが国で最も多様な寒冷地形のみられるところです.


3.高山帯の生物
 大雪山系にはわが国最大規模の高山帯が広がります.高山植物はおよそ200種が知られ,その特徴は,日高山脈・夕張山地に比べると固有種が少なく,北米大陸と関連をもつ種が多いということです.これは大雪山系が火山地帯にあるため大規模撹乱がしばしば繰り返されてきたことと関係していると考えられます.大雪山系では昆虫類が3000種ほど,蜘蛛類が250種ほど記録され,このうち50種ほどの昆虫類と20種ほどの蜘蛛類が高山帯を生息地としています.なかでもウスバキチョウ・アサヒヒョウモン・ダイセツドクガ・ダイセツヒトリ・アラコガネコメツキ・ヌタッカゾウムシ・タカネマメゲンゴロウ・クモマエゾトンボは日本列島では大雪山系の高山帯にのみ生息する種です.これらの種の多くはユーラシア大陸北部や北米大陸北部にも分布します.またワタナベナガケシゲンゴロウ・アシマダラコモリグモ・ダイセツカニグモ・マツダタカネオニグモは世界中で大雪山系でのみ生息が確認されている固有種です.鳥類は174種の鳥類が記録され,高山帯で注目されるのはギンザンマシコ・ハギマシコ・シロフクロウです.ギンザンマシコはユーラシア大陸と北米大陸の針葉樹林帯に分布し,日本では大雪山系のほか知床半島・日高山脈などのハイマツ林でも繁殖期に記録されていますが,大雪山系がわが国最大の繁殖地となっています.ハギマシコはわが国では繁殖が確認されていませんが,しばしば越夏しており,繁殖の可能性が高い種です.北極圏のツンドラ地帯を繁殖地とするシロフクロウも大雪山系の高山帯でときおり越夏し,ここでナキウサギを捕食しています.哺乳類では高山帯にのみ生息する種はいませんが,大雪山系は北海道におけるナキウサギの最大の生息地となっており,その生息地の多くは高山帯にあります.


4.北方針葉樹林の鳥類
 大雪山系の山腹にはエゾマツ・トドマツからなる針葉樹林が広がります.この北方針葉樹林の広がりはわが国最大です.ミユビゲラとキンメフクロウの繁殖は,わが国ではこの針葉樹林でのみ記録されています.両種はユーラシア大陸や北米大陸の北方針葉樹林,タイガを生息地としており,大雪山系の針葉樹林は飛び地的生息地となっています.

5.然別湖で進化するオショロコマ
 大雪山系には10数種の淡水魚が生息しますが,注目されるのは,然別湖とその流入河川にだけに棲むオショロコマの亜種,ミヤベイワナです.ミヤベイワナと北海道の山岳河川に生息するオショロコマの大きな違いは,サイハの数にあります.ミヤベイワナは湖でプランクトンを食べるため,サイハの数が川で暮らすオショロコマより多くなりました.つまり,然別湖を舞台に独自の進化をしているのです.


6.北の動植物の渡来時期
 ウスバキチョウ・アサヒヒョウモン・ダイセツドクガなどの高山性昆虫,高山帯で越夏するシロフクロウ・ギンザンマシコ・ハギマシコ,針葉樹林帯で繁殖するキンメフクロウ・ミユビゲラなどは,高緯度地方に分布の本拠地をもつ「北の動物たち」です.大雪山系固有種のアシマダラコモリグモ・ダイセツカニグモ・マツダタカネオニグモなども近縁種が高緯度地方に分布しており,生息地の隔離により種分化したと考えられる「北の動物たち」です.また高山植物の多くも高緯度地方に分布の本拠地をもっています.このように大雪山系の動植物相は,高緯度地方に分布域をもつ種の飛び地的分布によって特徴づけられます.では,これらの動植物はいつ大雪山系へたどり着いたのでしょうか.高山植物や移動性の乏しい動物は,更新世中期までには渡来していたのではないか,と私は推測しています.


JICA研修員と学んだ霧多布湿原の住民参加型への取り組み

山本ひとみ(ほっかいどう学自然環境の会・NPO法人EnVision環境保全事務所)

 霧多布湿原は、北海道のラムサール条約12湿地の内のひとつで、二十数年前から様々な保全活動が行われています。2010年7月、コスタリカからのJICA研修員と共に霧多布湿原を訪れました。今回は、霧多布・嶮暮帰島におけるJICA研修員たちと一緒に学んだ、研修員たちが自国でも取り組みたいと考える保全活動についてお話します。保全活動とは、1.地元NPOによる湿地買い取り活動、2.住民ガイドによるエコツアー、3.湿地保全のための環境教育(地元小学生自然体験学習プログラム)、4.道東の小さな町から全国に発信される湿原保全活動の援助システム(ファンクラブなど)、に分類されます。このうち、2、3はコスタリカでも実現可能とのことでした。霧多布・嶮暮帰島(浜中町)の豊かな自然の魅力とともに、その活動の詳細を紹介します。


ほっかいどう学 “学ぶこと、伝えること”

樫田幸一(ほっかいどう学(自然環境)の会)

はじめに  私が勤めている“おおぞら”は入所定員100名、通所リハビリテーション定員70名の単独型の介護老人保健施設です。周辺に丘珠空港があり施設からは飛行機の離発着がみられ、遠く北には増毛山地又東には夕張山地、南西にかけては手稲山よりのスカイラインが眺望できます。
 当施設では通所・入所の利用者に対しリハビリテーション、クラブ活動、誕生会、季節に合わせたさまざまな行事などを行っています。その中で地域の歴史、文化、自然環境、などを学ぶ北海道今昔、ほっかいどう学を実施し今年2月で26回を数えました。
 この取り組みを通し、私の感じた“学ぶこと・伝えること”をお話したいと思います。

きっかけ
 職場広報誌が平成20年4月にリニューアルし、創刊号に東区今昔として札幌村を特集しました。その後も玉葱栽培や、レッレップの歴史(現、栄町)、そして石狩川水系(豊平川、伏古川、茨戸川など)平成23年からは、札幌近郊の山々と連載を続けています。
 当初より広報誌だけでなく言葉や画像を通して直接伝えたいという思いがあり、平成21年5月より北海道今昔、ほっかいどう学としてとして実施しました。

伝えたこと、伝えたかったこと
 第1回開拓の歴史、第2回母なる川、石狩川、第3回札幌扇状地・川の風景 第4回札幌村農業の歴史、第5回丘珠村の夜明け・伏古川の恵み ・・・・・
 と北海道今昔として予定通り進みました。会場は食堂にスクリーンを用意し参加者は約30~40名でした。第6回よりは当時の画像などを使い、昭和という時代を振り返る構成にしました。
 昭和は、どうしても戦争の話題が避けて通れないところでした。日本の満州進出から太平洋戦争、戦後の復興と3回に分け皆で学習し、その後数回をかけ平成までを振り返りました。

会話をしながら
 第14回からは皆が話し易いように会場を会議室に移し、名称も北海道今昔よりほっかいどう学と名前を変更し回数を増やし、隔週実施しています。参加者は毎回10名前後で、開拓の頃の話や、北海道の自然環境、食文化、また懐かしいくらしのDVDをみて皆の経験などを話してもらいながら進めています。なかでも、北の魚クイズや鮭の飯寿し、漬け物の話などの時は、体験談も多く出て、とても盛況でした。
今後も身近な話題、身近な光景など北海道ことを、いろんな方々の力もお借りしながら発信していきたいと思います。


北海道のハンミョウとその生息状況

堀 繁久(北海道開拓記念館学芸員)

 ハンミョウは主に裸地に生息するオサムシ科(Carabidae)ハンミョウ亜科(Cicindelinae)に属する甲虫の一グループで、全国的に生息環境の減少により個体数を減らしている肉食性の昆虫である。漢字で斑猫、英語でTiger Beetleと記され、各国で猫科の肉食獣のイメージがもたれているようだ。幼虫は地面に縦穴を掘って、アリなどを捕食して暮らしている。
 北海道からは、8種のハンミョウが知られている(堀、2006)。どの種も生息地は減少してきていて、北海道の希少野生生物(RDB)2001で、砂地に生息するカワラハンミョウと河原に生息するアイヌハンミョウは絶滅危急種(Vu)に指定され、飛翔能力を欠くホソハンミョウとマガタマハンミョウは希少種(R)に指定されている(北海道、2001)。じつに、北海道に生息するハンミョウ類の半数の種で絶滅が心配されている。なお、マガタマハンミョウに関しては過去に駒ケ岳と支笏湖で得られたという標本が2例あるのみで、分布の詳細は不明である。
 この機会に、それぞれの種の特徴とその分布、そして生息状況について知っていただき、北海道内で絶滅に瀕している甲虫がいることを是非知っていただき、新産地の発見や生息地の保護につなげていただきたい。

【北海道から記録のあるハンミョウリスト】
 ホソハンミョウ Cylindera gracilis (Pallas, 1777)
 エリザハンミョウ Cylindera elisae (Motschulsky, 1959)
 マガタマハンミョウ Cylindera ovipennis (Bates, 1883)
 ミヤマハンミョウ Cicindela sachalinensis Morawitz, 1862
 コニワハンミョウ Cicindela transbaicalica Motschulsky,
 ニワハンミョウ Cicindela japana Motschulsky, 1857
 アイヌハンミョウ Cicindela gemmata Lewis, 1891
 カワラハンミョウ Chaetodera laetescripta (Motschulsky, 1860)

引用文献
 北海道(2001)北海道の希少野生動物 北海道レッドデータブック2001:309pp
 堀繁久(2006)ハンミョウ、探そう!ほっかいどうの虫:38-39


北海道の川が大変だー!!
底生動物最大のエイリアン「ウチダザリガニ」
- 外来生物と多様性の保全 -

斎藤和範(ざりがに探偵団主宰・旭川大学地域研究所)

外来種とは
 外来種とは外国から来た動植物だと思われがちだが、実はそうではない。動物や植物の生息域は、国の境で決められているわけではないため、外国から来た生き物も含めて、過去や現在の自然分布域以外に、人によってもたらされた生き物(種・亜種・変種・品種など)すべてをいう。
「外来生物法」-特定外来種による生態系等に係る被害の防止に関する法律-「2005年6月制定」
 法律の目的:1.在来生態系の保全 2.人的・産業的被害の防止 3.固有種・希少種などの生物多様性の保全

特定外来生物(侵略的外来種)とは
 ・外国から来た生物で、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるもの。
 ・生きているものに限られ、死んだものは含まない。
 ・個体だけでなく、卵、種子、器官なども含む
特定外来種に指定されると、輸入、飼育・栽培、運搬、保管、譲渡・引き渡し、放逐・植える・撒くことが禁止、禁止行為をした場合、外来生物法違反で逮捕され、個人の場合最大、懲役3年以下もしくは300万円以下の罰金が、法人の場合、最大1億円以下の罰金が科せられる。
北海道で生態系に大きな影響を及ぼしている特定外来種
 動物:アライグマ、アメリカミンク、ウシガエル、オオクチバス、コクチバス、ブルーギル、ウチダザリガニ、セイヨウオオマルハナバチ
 植物:オオハンゴンソウ、ヤエザキハンゴンソウ、キンケイギク、オオフサモ、アレチウリ

特定外来種ウチダザリガニ・タンカイザリガニ(ザリガニ科)
 原産地:北米コロンビア川。北海道へは1930年に農水省によって、摩周湖に476尾のウチダザリガニが優良水族導入のため放流された。現在の道内分布は、道東一円・道東・道央に分布が拡大している。道外では福島県磐梯朝日、長野県明科町、千葉県利根川で見つかっている。

侵略的外来種種が侵入すると
 1.在来種を殺す2.在来種の餌・空間資源を奪う3.寄生虫/病原菌の媒介4.生息域の植生改変5.交雑による遺伝子汚染などが引き起こされ、在来種が絶滅し、食物連鎖の破壊などが起きることによって、在来生態系が破壊される。
 ウチダザリガニの分布拡大の要因は、自然や生態系、外来生物に対する「無知」によって引き起こされた。元々その地域に生息しない生物の放逐は、その地域の本来の生態系、に大きなダメージあたえる。人間に影響が判らないと言って、導入することが安全だとは限らない。
 生物多様性は、それぞれの地域に独自の遺伝子を持つ生物が多種生息し、多様な生物相があるだけでなく、多様な生態系が存在することが重要である。これらの生物多様性を保全するためには、それぞれの地域にある独自の自然生態系や在来種(=いわゆる普通の生物)を大切にする事が重要。


動物学標本の入手および作製時等に留意すべき感染病原体とその対策の概要

浅川満彦(酪農大・獣医 感染・病理教育群 / 野生動物医学センターWAMC)

 まず、博物館標本として比較的入手が可能な日本産野生哺乳類の代表種(ニホンザル、ニホンジカ、ニホンカモシカ、イノシシ、キツネ、タヌキ)を対象に、これらが有する(あるいは、有するであろう)ヒト・飼育動物(家畜・愛玩動物・動物園動物など)、そして野生動物に感染可能な病原体について概説したい。次いで、これら具体例を念頭に置いた状態で、実際の標本作製の場でバイオ・セキュリテイー的にどのようなことに留意すべきか皆さんと一緒に考えたい。皆さんは、どのような感染病原体がもっとも危険かといった優先順位が明らかな一覧表を期待されるかも知れない。
 しかし、疫学研究自体、開始されたばかりである。また、演者自身、感染症学のごく狭い一分野「寄生蠕虫症」の専門家でしかない(ウイルス症や細菌症については、たとえ「獣医師」という資格はあっても、専門的な研究分野ではない)。したがって、このような所まで踏み込むことは許容されない。と、いうか、私たちが寄生虫学の研究をしたいがために、専門外の感染症の知識を深め、具体的に対応をしている途上である。このような経験(失敗例を含め)を披瀝することは、自然史を対象とされる皆さんにも参考になると思い、今回、お話をする。
 優先順位を規定したリストに話を戻すが、もちろん、ヒトと飼育動物に関しては、それぞれ医学/厚生労働省/WHOおよび獣医学/農林水産省/OIEが、それぞれ所管する法的根拠から(罰則規定を含め)、しっかりしたリストは作成・公開されている。しかし、これら両学問・省庁の「縦割り」は、別々のリストとなっている。さらに、本来、野生動物は欧米では貴重な自然資源であると見なされているが、日本ではいまだに無主物の扱いのままであるので、感染症への対応は、各研究者の趣味的な課題である。従って、皆さんが期待するリストは、医学(厚労省)・獣医学(農水省)・保全生態学(環境省)の共同作業により、国家的なプロジェクトとして編纂されるべきである。が、現状は夢のまた夢。
 それならば、各博物館の標本収集業務で生の哺乳類材料を扱うには、各人が関連知識を具有し、自己責任のもと、対応するしかあるまい。今回の講演はそのような知識のごくごく一端を披瀝するものである。時間が限られているので下記浅川論文をテキストとして配布し、講義型の講演とする。

 浅川満彦. 2010. 野生中大型獣類3種の交通事故死体から感染するおそれのある病原体について(概要紹介). 第9回「野生生物と交通」研究発表会論文集: 5-9.
 浅川満彦. 2011. 本州以南における野生獣類の死体処理時に留意すべき感染症とその病原体(概要紹介). 第10回「野生生物と交通」研究発表会論文集:63-71.


北海道のヒグマの危機管理能力

小宮山英重(野生鮭研究所)

 ヒグマは猛獣である。ところが、彼らの主要な食料は、草や果実などでどちらかというと草食獣(佐藤2006)の傾向が強いという。ごく少数の人喰い熊が有名すぎるためであろうか、クマは人に襲いかかる危険な動物だとの記述は、国立大学医学部の教授の著書や有機農業に従事する有名なタレントが書いた新聞のコラムなどでしばしば出会う現実である。どうやら実像と想像上の姿のギャップが大きい動物であるらしい。
 私は、1969年春に東京から北海道に移住した。その年に山仲間の道産子からヒグマに対する畏敬と恐怖の入り混じった感覚を教わった。以来40年以上が経過したが、多くの道産子の「ヒグマは危険な動物」との評価は変化していないと思われる。明治から昭和まで北海道のヒグマは、人の展開する全滅作戦に曝されてきていた。1990年以降に変化が生じ、現在まで北海道では人とヒグマが共存するためのヒグマの保護管理体制を作る作業が進行中である(間野2008)。にもかかわらず、現在も、人家近くに出てきた、もしくは人目に触れたヒグマは捕殺される確率が高い(と推定される)。さらに、人に対して被害を与えていない、人と共存する上で優秀な形質を持っている善良な個体も問題グマになる可能性がある個体も区別なく有害獣として捕殺されている可能性が高い現状でもある。
 1969年以来現在まで年間平均100日前後を川での魚類調査を中心に山野を歩き回る生活を続けているが、私の体験では、2003年以降の知床半島での調査事以外は、距離数百メートルの範囲内でヒグマの姿を確認したことはない。残された痕跡や糞などから、より詳細に表現すると、ヒグマが確保する食料がないのであれば、ヒグマは人に居場所を譲ってくれる性質が強いこと、突然出合いそうな場合でもヒグマが先に人の接近を察知して退避してくれていた結果と予想している。また、調査では繰り返し同じルートを踏査するので、面的に維持されているヒグマの生活域内に固定された線状に構成された人の縄張りに対して人の動作を注意深く観察するヒグマが人を忌避しやすい構造となった可能性が高いと考えられる。
 今回は、2004年から2009年までの6年間に知床半島のルシャ地区でサケ科魚類を捕食するヒグマの生態を車の中から観察し、記録できたルシャ地区におけるヒグマ社会の中でのヒグマのヒグマに対する危機管理体制、ヒグマが人に対する危機管理体制の事例などヒグマの学習能力のレベルの高さや母グマの子グマに対する教育力を紹介したい。
 そして、北海道のヒグマは、人の生活圏に密接した生活ゆえに人を極端に恐れている猛獣であること、および、高い知能を持ち、周辺に十分気遣いをしながら生きている大型哺乳類であるという評価のパラダイム転換を提言したい。
 最後に、以上の事例を踏まえた、人と問題を起こす可能性の高いヒグマを増やさないための北海道における方策、ヒグマと共存するための人の知恵の出し方について論議したい。


北海道産ハツカネズミの染色体に刻まれた歴史

桑山 崇(北海道大学理学部)

 ハツカネズミ(Mus musculus)は世界的に広く分布し,大きく3亜種にわけられる.M. m. domesticus(DOM)は,北アフリカや西欧に分布し,南アフリカ,北米,南米,豪州へのヒトによる移入が知られる.M. m. musculus(MUS)は東ユーラシアに,M. m. castaneus(CAS)はインドをはじめとした南アジアに分布する.日本においては,有史以前に南アジアからCASが移入し,その後稲作とともに朝鮮半島よりMUSの移入があったとされ,ミトコンドリアDNAを用いた研究により北海道にはMUSとCASがミトコンドリアのタイプが分布することが明らかになっている.また,核DNAを用いた先行研究では,CASとDOMの両方のハプロタイプ(同一染色体上にあり,遺伝的に連鎖しているSNPなどの多型の組み合せ)が見られた.しかし,MUS,DOMの移入の時代の推定までは至らなかった.
 本研究では,野生北海道産ハツカネズミについてハプロタイプを詳細に調べ,年代を推定するとともに,得られた情報からハツカネズミの自然史について考察した.
 材料は北海道産ハツカネズミ10 地点12 個体を用い,(1)200 kbおきに1 Mbにわたり6遺伝子をマーカーとして選択(1 Mb range),(2)同様に,1 Mbおきに5 Mbにわたり6 遺伝子をマーカーとして選択(5 Mb range)し,それぞれについて約500 bpの配列を読んだ.各遺伝子について得られた配列からネットワーク樹を作製し,亜種の判別を行った.その後,ハプロタイプの構造を推定し,得られた構造から年代の推定を行った.
 5 Mb rangeでは釧路と共和の地点において,ここ数十年で移入したと推定できる長いDOMが検出された.釧路,共和ともに港が近く,船による欧米からの移入であると考えられる.この近年の浸透性交雑は遺伝子汚染ともいえる.また,1 Mb rangeでは各地点において数百年前と推定されるCASの断片とが観察できた.これは,江戸時代以降に稲作とともに本州のMUSが連れ込まれ広まり,そこに定着していたCASとの間に浸透性交雑を起こしたものと考えられる.
 以上のように本研究では,北海道のハツカネズミについて,南アジアからきたCASと朝鮮半島からきたMUSとの間の比較的古い浸透性交雑と,近年の欧米由来のDOMとの間の浸透性交雑(遺伝子汚染)との両方が検出できた.また,年代推定によって大まかではあるが,ハツカネズミの歴史について考察できた.今後は,さらにサンプルを増やし,地域ごとを比較するなど,さらなる研究を進めていく必要がある。


北海道に記録された、過去の温室地球における生物の変遷史

栗原憲一(三笠市立博物館 主任研究員)

【現在の地球環境】
 2007年に発表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第4次評価報告書では、過去100年の世界平均気温(1906~2005年)は長期的に0.74℃上昇し、気候システムに温暖化が起こっていると断定された。そして、このまま温暖化が進行すると、今後は積雪面積の減少や極地域の海氷の縮小、海洋の酸性化などが起こると予測されている。そうなれば、当然、我々人類を含む生物にも様々な影響を及ぼすことは必至であろう。では、このまま温暖化が進行すると生物はどのような影響を受けるのか?この疑問を解く鍵の1つは、過去にある。

【過去の地球環境】
 約1億年前の白亜紀中期は、過去2億年間で最も温暖化の進行した時期である。二酸化炭素濃度は現在の2~10倍、極地域に氷床はなく、海水準は現在よりも200m以上高かった。したがって、この過去の温室地球に起こった生物の事件を解き明かすことは、今後の地球環境を考える上でも重要な資料になり得ると考えられる。

【北海道からのアプローチ】
 北海道中央部には、南北に渡って帯状に、白亜系蝦夷層群と呼ばれる約1億年前の海で堆積した地層が分布している。この地層群からは、当時繁栄したアンモナイト、二枚貝類、巻貝類、モササウルス、クビナガリュウなど、多種多様な生物の化石が豊富に産出する。特に、北海道中央部の三笠市に分布する蝦夷層群では、白亜紀中期に堆積した水深数m~数十mの浅海の地層から、水深数百mの沖合の地層まで様々な環境下で堆積した地層が分布している。したがって、三笠市は白亜紀中期における浅海~沖合までの生物相を明らかにすることのできる貴重な場所であると言える。
 本発表では、三笠市を中心とした蝦夷層群分布域から産出する化石を材料として、約1億年前の白亜紀中期における北太平洋地域の軟体動物化石群の変遷と古環境について紹介する。また、現在、展示室の改修を行っている三笠市立博物館の改修内容と今後の活動方針についても併せて紹介する。


2005年〜2010年の石狩湾沿岸におけるアオイガイの大量漂着

○志賀健司(いしかり砂丘の風資料館)・伊藤静孝

■暖流系漂着物、アオイガイ
 アオイガイ(Argonauta argo、特に軟体部を指す場合はカイダコとも呼ぶ)は表層浮遊性で世界の温帯〜熱帯海域に生息するアオイガイ科のタコで、暖流により低緯度から高緯度へと輸送されて漂着する暖流系漂着物(WWD; warm-water driftage)の代表的存在である。そのメスは産卵・孵化のために石灰質の白く薄い殻を作る。西日本の日本海側の砂浜では、秋から冬にかけてアオイガイがしばしば漂着し、年によっては大量漂着が見られることもある。過去、北海道におけるアオイガイの漂着例は稀で、石狩浜でも、数年に一度見つかるかどうか(地元住人の話)、という程度だとされていた。しかし2005年秋、石狩湾沿岸、さらには全道各地でもアオイガイ漂着情報が相次いだ。また同時に、アオイガイ以外のWWDも増加した。演者らはその背景には何かしらの海洋環境の変動があると考え、2005年以降、継続的に石狩湾沿岸において漂着アオイガイの調査を実施している。

■2005年〜2009年の漂着
 調査地域は石狩湾沿岸、特に小樽市銭函〜石狩川河口の区間とした。アオイガイ漂着が見られる秋季、1週あたり3回の頻度で未明から砂浜を踏査し、発見した漂着アオイガイをすべて採集した。
 2005年〜2007年は毎シーズン100個体分以上のアオイガイ漂着が確認された。もっとも多かったのは2007年秋の152殻である。この年には、これまで北海道では見られなかったWWDとしてギンカクラゲ、ルリガイも初めて記録された。しかしそれ以降アオイガイ漂着数は減少し、2009年にはわずか5個体しか確認できなかった。
 2005年〜2009年の石狩湾の海面水温(SST; sea surface temperature)を調べてみると、石狩湾でのアオイガイ漂着数と初秋のSSTとの間には相関関係がある——9月〜10月の平均SSTが高い年には、その直後のアオイガイ漂着も多い——ことが明らかになった。
 過去50年間の全国におけるアオイガイ漂着の記録を集めてみると、大量漂着の発生する間隔は一様ではなく、10年もしくは20年ごとに大量漂着の多い時期と少ない時期が繰り返しているようにも見える。石狩湾ではSSTと関係が強いことを考えると、アオイガイ大量漂着現象の背景には10〜20年スケールの気候変動(例えば太平洋十年規模振動PDO; Pacific decadal oscilation)が影響している可能性がある。ただし、まだ情報収集が不十分であること、大量漂着の発生地域違いなどもあり、長期変動については今後の検討課題である。

■2010年の大量漂着
 2005年以降増加したアオイガイ漂着だが、2009年までにはほとんど見られなくなるまでに減少した。ところが2010年秋は打って変わり、これまでにないほどの大量漂着を記録した。1シーズンの漂着数は478個体で、これまで最高だった2007年の3倍に達した。また、新たにWWDとしてカツオノカンムリも記録された。2010年の夏〜秋、日本周辺のSSTは異常に高かった(9月上旬の北日本沿岸で平年より3〜5℃高温)ことから、石狩湾沿岸における秋の高SSTとアオイガイ大量漂着との関係は、一層確かなものとなった。

 アオイガイの美しい殻は人々の興味を惹くに十分であり、その調査は、海洋環境をモニタリングする手軽な手法のひとつである。アオイガイ漂着の経年変動を把握し定量化するために、多くの市民と協力していきたいと考えている。


パラタクソノミスト養成講座ネットワークについて

大原昌宏(北海道大学総合博物館)

 北大総合博物館では、2004年よりパラタクソノミスト養成講座を開催してきてきた。今年で7年目になり、計129講座、受講者は1,612名に及んでいる。多くの受講者からは、分類学、標本学への理解と博物館の重要性を再認識された、と評価を受けている。
 今後、養成講座の継続運営と、対象とする分類群の分野や開催地域を拡大するためには、組織的なネットワークの構築が欠かせない。
 本講演では、(1)北大でおこなってきたパラタクソノミスト養成講座の概要、(2)今後の運営形態と問題点、(3)パラタクソノミスト養成講座ネットワークの構築、について触れる。特に(3)については、北海道自然史研究会のネットワークとの協調を念頭に議論させていただきたい。

 この試みは困難の連続である。が、大学とは「研究を基盤にした教育」をする組織であることを明確化すれば、このような標本も有効な教育(啓発)に還元されれば、いつの日か大学博物館の創設などに繋がるものと信じている。今回はその挑戦の概要を紹介したい。


自然史研究会の研究報告データベースの取り組み

渡辺 修(北海道自然史研究会・さっぽろ自然調査館)

 現在、各方面において、学術論文や各種調査報告などを研究者や市民が利活用しやすくするために、電子化してインターネット上での検索が容易な形でアーカイヴ(書庫)に格納されることが多くなっています。
 しかし、北海道内の自然環境に関する報告で、このような形になっているものは非常に限られているのが現状です。これは、道内の市町村立博物館・郷土館においては、地域の自然環境に関する貴重な研究が行なわれ、研究報告等で発表がなされているにも関わらず、各館単体ではこれらの論文を電子化しウェブ上のデータベースに格納するための費用や労力が十分確保できないことに主な要因があると考えています。
 北海道自然史研究会では、道内各館の学芸員が連携し、アーカイヴ化の作業を効率的に進めることで、北海道の自然史研究をより発展させていきたいと考えています。ウェブでまとめて公開することで、情報の確認や利用もしやすくなると考えています。また、博物館関係だけでなく、市民団体や高校生物部などでの取り組みも含め広く自然に関する情報を整理して、ウェブ上で活用しやすくするとともに、研究者間での交流につなげたいと思います。

2010年11月に公開を開始し、現在400余の論文を公開しての反応を紹介します。
サイト http://www.cho.co.jp/natural-h/
ツイッター http://twitter.com/natural_h



発表一覧

 講演 保田信紀 大雪山の高山昆虫

 松田まゆみ 北海道におけるイソコモリグモの生息実態
 山本亜生 銭函海岸の昆虫相―小樽市総合博物館の調査から
 内藤華子 石狩浜海浜植物保護センターの活動と課題
 義久侑平 札幌に侵入したトノサマガエルがもたらす生物群集への影響
 小宮山英重 北海道知床半島でサケ科魚類を採食するヒグマの生態:ヒグマの社会構造と若者組の意味
 木下豪太 北海道産ユキウサギの系統地理学的解析
 川辺百樹 エゾナキウサギの分布はどこまでわかったか
 久井貴世 タンチョウと人との関係史 ―タンチョウの商品化および利用を中心に―
 吉野智生 北海道産水鳥類から検出された線虫類の概要と その空間疫学的解析
 浅川満彦 保全医学の証憑標本は教育活動にも活用-大学博物館創設への挑戦

要 旨


大雪山の高山昆虫

保田信紀(大雪山自然史研究所)

 大雪山の高山帯は広大です。そしてそこには氷期の遺存種と呼ばれる高山性昆虫が日本でもっとも豊かに生息しています。
 高山蝶という呼び名は、高山に自生する植物が高山植物と呼ばれたのと同じ発想から生まれてきたものと考えられます。しかし高山帯といっても、一つの定義された高度が存在するわけではなく、北海道より高緯度地域では低くなり、逆に本州の山岳では高くなります。高山帯と亜高山帯との境界はふつう森林限界に設定されています。したがって高山蝶とは、垂直分布的には森林限界より上部の環境(非森林的)で生活する蝶と言えるかもしれません。
 北海道には5種(ウスバキチョウ、アサヒヒョウモン、カラフトルリスジミ、ダイセツタカネヒカゲ、クモマベニヒカゲ)の高山蝶が分布していますが、大雪山にはその全てが生息しています。
 そのうち本州との共通種はクモマベニヒカゲのみで、残りの4種は本州の高山には分布していません。しかし不思議なことに、海を超えたシベリア大陸や北米大陸にはいずれもその共通種が分布しているのです。この事実は、北海道の自然がいかに大陸と深く関連されていたかを物語っています。
 過去の氷期(特に最終ウルム氷期)には海水面が低下したため、日本列島は大陸の一部となっていたといわれています。そのため多くの生物は大陸から渡来していたものと考えられますが、地球が温暖化に向かったとき、まず北海道は津軽海峡によって分離されました(ウルム氷期においても分離されていたという説もある)、しかし比較的に浅い海峡をもつ宗谷海峡や間宮海峡はなおしばらく陸橋として存在しており、その陸橋を通して大陸-サハリン―北海道と生命の交流が続いていたものと考えられます。やがて温暖化がさらに進み、北海道が現在のように大陸と完全に分離されてしまうと北方へと帰ることのできなくなった多くの寒地性の生物は寒冷な気候条件を求めて高山へ高山へと昇りつめていき、今、私たちが「氷河期の落とし子」と呼んでいる高山蝶や高山植物もこのような路を辿ってきたのでしょう。
 さらに大雪山の高山帯にはウスバキチョウやアサヒヒョウモンなどのように大雪山のみにその分布が限られている高山昆虫が生息していますが、このような昆虫は、その後の温暖期(ヒプシ・サーマル、約5000~6000年前、現在の気温より2℃ほど上昇していた)に重要な影響を受けていたものと考えられます。例えば、日高山脈のような細い稜線上に高山帯を持つ高山や羊蹄山や利尻山などの孤立した高山では、気温が上昇したとき高山帯域の分断や縮小が起こり、それに対応して高山昆虫の生息地は分断、縮小、さらに消失が起こり、地域によっては個体群の絶滅が生じたと考えられます。しかし比較的に標高も高く広大な連続した高山帯域を持つ大雪山では、多くの高山性昆虫の避難地(refugia)は残されており、その後の気温の低下とともに再びその分布域を拡大することが可能であったのでしょう。
 大雪山の高山蝶の生い立ちはこのような地史的背景をもとに形成されてきたものと考えられますが、同じ大雪山系の中でもこのような類似の分布様相はみられます。また高山昆虫と高山植生との対応において、最も特徴あるのは高山風衝地群落における昆虫相です。ここでは、ウスバキチョウ、ダイセツオサムシ、さらにクモ類のアシマダラコモリグモ、ダイセツカニグモなどの真正高山種からなる大雪山特有のファウナが豊かに観察されます。


北海道におけるイソコモリグモの生息実態

○松田まゆみ(日本蜘蛛学会会員)・川辺百樹(ひがし大雪博物館)

イソコモリグモとは
 イソコモリグモLycosa ishikariana (S. Saito 1934)は、故斎藤三郎氏が1934年にTarentula ishikariana (和名イシカリドクグモ)として新種記載したコモリグモで、記載に用いられた標本の採集地はishikariとされており、石狩浜がタイプロカリティ―と考えられている。  日本固有種で、北海道と本州の青森県から島根県までの日本海沿岸および青森県から茨城県までの太平洋沿岸の砂浜に生息する。コモリグモとしては大型で、体長は雌が20mm前後、雄が17mm前後。海浜植物がまばらに生育する砂浜に縦穴を掘って中に潜み、夜間に巣穴付近を通る昆虫などを捕食する。昼間は巣穴の入り口を、砂粒を綴って閉じていることもあるが、子グモは入り口を閉じないために昼間でも見つけやすい。また、古巣の有無も本種の生息を調べる際のポイントとなる。  海浜植物を伴う自然の砂浜の激減により生息地が減少しており、国のレッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類(VU)とされる。

八幡の生息可能性浜の推定と生息の実態
 八幡(2007)は、イソコモリグモの減少についての量的評価を行なうことを目的に、本州での実地調査のデータを利用して統計モデルを作成し、そこから全国における「生息可能性浜」と、生息域の減少について推定を行なった。その結果、北海道においては推測生息浜長が621.7キロメートル、そのうち高レベル浜が459.3キロメートルとなり、北海道では広範囲にわたって本種にとって良好な生息環境が保たれていることを示唆した。  演者らは渡島半島、知床半島、根室地方を除く海浜の実地調査を行った結果、生息推定浜長は約225キロメートルとなった。八幡(2007)の推測が過大となった理由は、自然砂浜の中に本種の生息不可能な海食崖地形が含まれているためと考えられる。

イソコモリグモの危機と保護の視点
 本種の生息地の減少要因としては港湾建設、海岸浸食による段丘化、浸食防止の護岸や波消ブロック、車の乗り入れや人による踏み荒らしなどが挙げられる。孤立した生息地、小規模生息地ではモニタリングの強化や要因分析を行い、早急に保護策を講じることが求められる。また、大規模生息地では護岸工事などの改変の把握と工法の検討が求められる。


銭函海岸の昆虫相―小樽市総合博物館の調査から

山本亜生(小樽市総合博物館)

 石狩川河口を中心に約25㎞にわたって広がる「石狩砂丘」は、都市近郊にありながら、砂浜海岸特有の景観、生態系が良好な状態で残る、貴重な自然海岸である。小樽市銭函3–5丁目の海岸は、その中でも特に自然度の高い場所の一つであるが、これまで生物相に関するまとまった調査・研究はほとんど行われてこなかった。演者が勤務する小樽市総合博物館では、小樽市内に生息する動植物のインベントリー調査を続けているが、2004年からはこの銭函海岸を調査地に設定し、主に昆虫相の調査を実施している。

調査地について
 本調査は新川河口右岸から樽川埠頭までの約5㎞の海岸を調査範囲とし、生息する全昆虫のリスト作成を目指している。調査地は汀線に沿って幅30~200mほどの砂丘が帯状に続いているが、近年は浸食が進み、海側の段丘化が著しい。砂丘にはハマニンニク・コウボウムギ・ハマナスなどを主体とした海浜植生が広がり、内陸に向かってススキ等が優先する自然草原、カシワ海岸林と段階的に植生が変化する。また、砂丘の凹地には小規模な湿地が点在し、新川河口右岸の小樽内川跡にはやや大きい開放水面とヨシ群落がある。

これまでの成果
 これまでにトンボ目、鞘翅目、半翅目に関する3本の報告を発表し、約250種を記録した。未発表、未同定の標本は多数あり、未発見のものを合わせると、おそらく1000種ほどの昆虫が本地域に生息していると思われる。
 海岸性、草原性、湿地性、カシワ依存の特徴的な種が数多く確認され、レッドリスト掲載種も17種に及んだ。また、北海道でほとんど記録のないものや、既知種と形態・生態が異なっている不明種などもいくつか発見されており、今後の興味深い検討課題になっている。
 これまでに確認された鞘翅目・半翅目を生息環境ごとに整理すると、海岸18種、草原65種、湿地48種、森林71種となり、異なる環境に依存する種がまんべんなく得られていることが判る。それほど広くない調査範囲からこのような結果が得られたことは、本地域の昆虫相の高い多様性を示していると言える。また、汀線から内陸に向けて変化する砂浜海岸特有の環境構造が、良好に残存していることも示している。

今後の課題
 汀線付近で採集された昆虫については未同定のものが多い。海岸環境を検討する上で重要な要素であるので、専門家と協力して解明度を上げる必要がある。また、昆虫の種数で大きな割合を占める鱗翅目、膜翅目についての調査が遅れている。これらは訪花昆虫としても重要であり、海浜植生、カシワ林など各環境で状況の把握を進めたい。
 本地域は砂丘の浸食、車輌乗り入れによる植生の破壊、不法投棄、開発などにより、環境の悪化が近年著しい。しかし市域のはずれにあることからこの地域に関する小樽市民の関心、認知度は決して高くない。今後も情報の収集、公開を続け、多くの人にこの場所と、置かれる状況について知っていただくことが重要だと考えている。


石狩浜海浜植物保護センターの活動と課題

内藤華子(石狩浜海浜植物保護センター)

石狩浜の自然と海浜植物保護センター  石狩砂丘は、小樽市銭函から石狩市厚田区無煙浜まで約25kmに及ぶ海岸砂丘です。汀線から砂浜、海浜植物に被われた海岸草原、海岸林と、海岸砂丘特有の植生の帯状構造が見られ、そこには砂丘植生に依存する生き物が数多く生息し、猛禽類や中型哺乳類を頂点とする生態系が維持されている、全国的にも貴重な自然海岸です。このうち、石狩湾新港から石狩川河口までの約7kmの部分が石狩浜です。

 1970年代以降、過剰なレジャー利用やハマボウフウ等山菜採りなどにより、海浜植生の破壊が進み、これを危惧した地元市民や自然愛好者の後押しにより、石狩浜海浜植物保護センターは、2000年にオープンしました。石狩浜の豊かな自然を守り回復させ、みんなの財産として次の世代へ残していくための活動拠点として、石狩浜の自然環境保全に関する普及啓発活動や調査研究に、市、市民、研究機関が協働で取り組んでいます。

おもな活動
 ・普及啓発:自然観察会、こども自然教室、ボランティア育成講座、学校等学習指導、
         情報誌・HP・展示物等での情報発信
 ・調査研究:植生回復試験、定期観察による開花状況調査、植生モニタリング、
         動植物リスト作成等
 ・保全対策:海浜植物等保護地区の管理・監視、
         一般海岸・海岸保全区域等のロープ柵の設置・管理等、
         海岸管理者との調整による保全

課題
 レジャー利用者のマナー不足・一般的な海浜環境への認識不足
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  アピールすべき海辺環境保全の必要性
   ・海浜生態系の有益性:緩衝機能、飛砂防止、等
   ・自然海浜の希少性:全国の砂浜海岸の7%
   (全国1300箇所の砂浜海岸のうち人工物なく6種以上の海浜植物生育する海岸の割合、
   日本自然保護協会調査より)
   ・希少種絶滅危惧種の生息地(植物10種、野鳥17種、菌類1種)
   ・海浜特有の生物の生息地(海浜植物、昆虫類、菌類など)
   ・多様な生物相の生育生息地(植物300種、野鳥142種、菌類29種記録)
   ・自然海浜に関する環境学習の場
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札幌に侵入したトノサマガエルがもたらす生物群集への影響

○義久侑平(酪農学園大学大学院)・澤田拓矢(財団法人札幌市公園緑化協会)・吉田剛司(酪農学園大学)

はじめに
 トノサマガエルRana nigromaculataは本州ではレッドリストに記載される地域があるほど希少な種となっているが,北海道では1990年頃に初めて北広島の水田で発見され,2004年に制定された「北海道ブルーリスト」において,国内外来生物に指定された.近年になってもトノサマガエルの分布は拡大し,現在では札幌市,江別市,恵庭市,南幌町でも確認されている.
 本研究の調査地である平岡公園の人工湿地では,2000年の完成当初からトノサマガエルの生息が確認されていた.人工湿地ではゲンゴロウCybister chinensisやオオコオイムシAppasus majorなどの希少種の生息も確認されているが,現在ではトノサマガエルが繁殖場所として利用している.外来生物による生態系への影響の種類は様々であるが,カエル類では生きた動物を採餌する種が多く,捕食による被害が懸念される.  そこで,本研究では在来生物群集への影響を把握するため,札幌市において外来生物であるトノサマガエルの食性調査を実施した.

方法
 2008年に調査地内で捕獲した324個体のうち,空胃であった194個体を除く130個体から摘出された胃内容物は743となった.

結果・考察
 胃内容物の解析結果で,4門8綱18目という多種多様な動物種をトノサマガエルが捕食していることが判明した.そのうち79.1%が節足動物であり,昆虫綱,ヤスデ綱,ムカデ綱,クモ綱,甲殻綱の5綱を含んでいた.特に昆虫綱は総数の66.8%を占めており,最も多く捕食されていた.節足動物以外では,淡水産・陸産の貝類が19.5%,ミミズ類が1.2%,ハリガネムシ類が0.1%であった.
 昆虫類においては,少なくとも65種の昆虫が捕食されていることが判明した.捕食された昆虫のなかには,希少種であるオオコオイムシも含まれていた.なお,ゲンゴロウについては摘出された胃内容物には含まれていなかったが,幼虫が蛹化場所を探すために陸地に上がったところを数匹のトノサマガエルに襲われ,捕食される現場を目視により確認した.摘出された胃内容物の季節消長を調べた結果,各餌種の出現頻度が季節によって変化していることも判明した.
 本研究では,札幌市内におけるトノサマガエルは特定の餌動物に依存せず,身の回りの動くものを非選択的に捕食する「何でも屋的捕食者」であることが判明し,在来の生物群集に少なからず影響を与えていることが示唆された.


北海道知床半島でサケ科魚類を採食するヒグマの生態:ヒグマの社会構造と若者組の意味

小宮山英重(野生鮭研究所)

 2004~2009年までの6年間、毎年8~11月に北海道知床半島ルシャ地区でサケ科魚類(カラフトマス・シロザケ)の生魚や死魚を採食するヒグマの行動を記録した。観察は、日の出前から日没後までの間の日中、目視可能な光条件下で自動車の中から実施した。ヒグマが観察車の動作範囲を予測して観察域内で不安感なく生活することを期待して、観察には同一の自動車を使用し、線状に固定した経路を移動して行った。調査域内にはサケ科魚類が海から遡上し、自然産卵で再生産している川が3本流れている。これらの河川は、河口部からサケ科魚類の産卵域となっている。そのため当調査域では産卵前の脂の乗った個体から完熟卵を抱えたメス、産卵後の自然死間近の個体などが混在して遊泳しているという特長があることにくわえて産卵最盛期経過後は大量の自然死個体が出現する場所になっている。ヒグマの食材の対象となったのはこれらすべての状態のサケ科魚類で、河川中や海中、およびその周辺で捕獲・拾得した生魚、死魚およびその破片(斃死魚、動物が捕食後の死骸、発酵・腐敗したもの、乾燥したもの)など多様であった。204日間で(年平均34日)、のべ約80頭を個体識別して行動を記録した。ルシャ地区で観察したヒグマは、人との距離に一定の線を引きながら採食にかかわる行動を観察させてくれる個体と採食行動の観察をさせず人の目から遠ざかることを最優先する個体すなわち行動観察をさせてくれない個体に分けられた。これらの人や車と出会った後の行動の違いから前者をA型(Actor type)のヒグマ、後者をN型(Normal type)のヒグマとして区別して記録した。この報告は、A型のヒグマの行動の記録である。

 ヒグマは母と子で構成された親子熊以外は単独生活者といわれている。観察した結果、基本的には単独生活者であるが、一定のルールで集団を形成することが判明した。個体識別をしてこれらの集団の構成員を分析すると、2から4頭で構成された親子(子の年齢は0歳~2歳)、母熊から独立した兄弟(1歳~2歳)、若者組(1歳~3歳)、大人組(4歳以上)の4グループに分けられた。兄弟は日中および夜間も行動を共にしていた。しかしながら、若者組は日中のみ一緒に過ごす集団で、夕方までには集団を解消すること、主に同年齢の個体で構成されることが判明した。また大人組は若者組ほど密着した行動様式は示さないが、排除する行動をおこなわず、採餌場所や休憩場所に一緒にいることを許容する程度の絆が継続している集団と推定された。

 大人は単独生活者であることが基本であるヒグマが若者組を形成する意味は、クマ社会では弱者に位置づけられる母親から独立したばかりの発育段階の時期に個体の生存率を高める役割を担う生存戦略のひとつと推定される。


北海道産ユキウサギの系統地理学的解析

木下豪太(北大院・環境科学)

 北海道にはユーラシア大陸北部に広く分布するユキウサギ(Lepus timidus)の固有亜種エゾユキウサギ(L. t. ainu)が生息している。エゾユキウサギは形態的特徴により亜種に分類されているが、北海道産ユキウサギと他地域集団との遺伝子情報に基づく系統関係は十分に調べられていなかった。また、現在いくつかの哺乳類で北海道内での遺伝的多様性が調べられており、それぞれの種が特異的な集団遺伝構造を持ち、各々の歩んできた集団史を反映していると思われる。そこで本研究では北海道産ユキウサギの遺伝子解析を行うことで大陸集団との系統関係が明らかにし、また北海道内での遺伝的集団構造を調べることで北海道産ユキウサギの集団史について考察を行った。

 本研究では2009~2010年に北海道84地点で採集したユキウサギの糞を材料に、DNA抽出の成功した63地点(72個体分)についてmtDNAの解析を行った。  先行研究により大陸の集団についてはスカンディナビアなどのヨーロッパ北部の地域個体群と、沿海州やカムチャツカなどロシア極東といった非常に距離の離れた地域間でも遺伝的な差はほとんど見られないことが知られており、大陸の集団は最終間氷期以前(およそ16万年前)に多様化して以降、個体群間で遺伝的な交流が続いていると考えられている。しかし本研究によって北海道のユキウサギは大陸集団とは遺伝的にも独立した系統集団であり、その起源も比較的古いことが明らかになった。  また今回、北海道のユキウサギと朝鮮半島の固有種L. coreanusが近縁関係であることが示された。これは過去に北海道産ユキウサギの祖先集団とL. coreanusの間で種間交配が起こったためであると推測される。

 一方、ユキウサギの北海道内における遺伝的多様性を調べたところ、北海道には集団構造の異なる2つのmtDNAグループ(Gp1,Gp2)に分けられることが判明した。さらにGp1は北海道全域に分布しているが、Gp2は石狩低地帯より東の地域でのみ確認されGp1に比べ遺伝的多様度も低く、比較的若い集団であることが分かった。このような遺伝的集団構造のことなる2つのmtDNAグループの存在は、北海道内で過去に大きな集団サイズの縮小や生息域の分断化が起きたか、または北海道への移入が複数回あったことを示唆していると考えられる。

 以上のように本研究によってこれまで未解明であった北海道産ユキウサギと大陸集団との系統関係や北海道内での特異な遺伝的集団構造が明らかになった。今後この集団構造の形成要因について北海道内で起きたイベントや大陸との交流をより詳しく検証することで、北海道の生物相全体の構造や歴史の理解に役立つと期待される。


エゾナキウサギの分布はどこまでわかったか

川辺百樹(ひがし大雪博物館)

 近年刊行された著作物(例えば“The Wild Mammals of Japan”,「日本の哺乳類改訂版」)においても,エゾナキウサギOchotona hyperborea yesoensis の生態的分布や地理的分布に関して不正確な,あるいは曖昧な記述がみられる.そこで,本種の分布に関して得られている情報を整理し,知見の共有化をはかる機会としたい.また,今後の本種の分布研究の課題についても明らかにしたい.

生態的分布に関する知見の整理
 Inukai and Shimakura(1930)以来これまでに得られた知見から,本種の分布が岩の積み重なった空間(以下「岩塊堆積地」)の存在によって支配されていることは疑いない.演者は,本種の生息可能な岩塊堆積地が主に崖錐(talus)と自破砕溶岩(autobrecciaed lava)に由来することを明らかにした(川辺2008). この岩塊堆積地の出現要因を理解することは重要である.これにより未調査地域での生息地の予測精度を高めることができるからである.本種の生息空間の記載は,これまで岩場・岩礫地・岩石地・ガレ場・露岩地など著者の好みで行われてきた.これからは,地形の由来を考慮した記載をすべきである.因みに米国の“The Smithsonian Book of North American Mammals”では,Ochotona collarisの生息地をareas of talus slope or broken rockとしている.

地理的分布に関する知見の整理と分布を制限する要因
 本種は,1929年に北海道中央部の置戸町の森林地帯で確認され (Inukai and Simakura 1930) , 1930年代初頭までに大雪山系の高山部(Inukai 1931),夕張山地・日高山脈での生息が判明した(Inukai 1932).その後,北見山地の広い範囲から生息が確認された(内田1960). 1988年には北海道環境部自然保護課によってアンケート調査が行われ,これにより本種の北海道における地理的分布がほぼ明らかになった(小野山・宮崎1991).すなわち,本種は,北海道中軸部の山岳地帯である北見山地・大雪山系・日高山脈・夕張山地に生息し,垂直分布は幌満の標高50mから大雪山系白雲岳の標高2230mに及ぶ.  北海道東部の阿寒や知床の火山群・北海道西部の暑寒別火山や石狩低地帯以西の山岳等にも岩塊堆積地はあるが生息していない.これには,現在の分布域からの距離とこれらの地域における岩塊堆積地の規模が関わっていると考えられる.また,本種が「高山のような涼しい場所でのみ生きていける」(石黒2007)との見解は,分布実態から否定される.つまり北海道における本種の地理的分布は,気温や高度ではなく岩塊堆積地の集中度合いによって制限されている.

今後の課題
 本種の生息地が極めて少ないといわれてきた夕張山地に少なくない生息地がある(川辺2009)ことを,そして夕張山地と日高山脈を繋ぐ生息地が存在することを今後明らかにしたい.また,本種が生息していた,あるいは生息していたと推測される低標高地の生息地破壊の実態を明らかにし,レッドリストに本種を登載すべきであることを示したい.

付記 ここで述べたことの多くは,演者の論文「北海道におけるエゾナキウサギの分布」と「夕張山地におけるエゾナキウサギ生息地」に基づいている.


タンチョウと人との関係史 ―タンチョウの商品化および利用を中心に―

久井貴世(北海道大学大学院文学研究科 修士課程)

はじめに  タンチョウGrus japonensisは,絶滅の危機にあったことから,1952年に国の特別天然記念物に指定された鳥類である.かつては本州方面でも見ることができた渡り鳥であったが,現在は主に北海道東部でしか見ることができない.北海道においては,明治中期頃まで北海道内各地に広く分布していたことが様々な資料から推測できる.北海道のタンチョウは,明治の混乱期における乱獲や湿地の開発による生息地の減少などが原因で,明治後期には絶滅したとまでいわれていた.しかし,その実態については未だ十分に解明されているとはいえず,今後のタンチョウの保護管理を適切に行うためにも,これまでのタンチョウと人との関わりを再確認する必要がある.本発表では,タンチョウを減少させた要因のひとつとして考えられる「商品化および利用」に焦点をあて,その利用実態について文献調査を中心にまとめた.

Ⅰ.日本におけるタンチョウ
 古来よりタンチョウは縁起の良い瑞鳥とされ,かつては本州方面でも見ることができた鳥であったことから,タンチョウと人は様々な場面で関わり合ってきた. 青森県や鳥取県などでは,古代の遺跡からタンチョウの骨が出土し,骨器の素材や食料としてタンチョウを利用していたことが推測できる.奈良時代には,貴族の屋敷でタンチョウが飼養され,平安時代には,ツルを食材とした料理が見られるようになる.ツルを最上位の食材・贈答品として頻繁に用いるようになるのは室町後期以降であり,これは,織田信長や豊臣秀吉らが,己の権威の象徴としてツルを利用しはじめたことによる.そして江戸時代には,ツルは将軍や有力大名など位の高い者の鳥とされ,庶民による捕獲や売買は厳禁,違反者には罰が科せられた.食材・贈答・飼養など様々な場面でタンチョウが利用され,鷹狩における最上の獲物としても位置付けられていた.

Ⅱ.蝦夷地・北海道におけるタンチョウ
 各種資料により,タンチョウは,明治中期頃まで北海道内各地に広く分布していたと推測できる.アイヌの人々はタンチョウを“湿原の鳥”と呼び,タンチョウにまつわる口承文芸なども伝えられている.また,アイヌの人々が捕えたタンチョウは,交易や儀式を通じて和人へももたらされた. 蝦夷地では,タンチョウを塩漬けにして他国へ輸出したなど,「鶴」は蝦夷地の産物として様々な文献に記されており,このことから,蝦夷地のタンチョウは重要な商品として利用されてきたと考えられる.贈答品としての利用も多く,徳川光圀へタンチョウを贈ったとの記録も残されている.
 タンチョウの商品化と利用は,明治時代の北海道においても続けられてきた.この時代では,庶民による利用のほか,1894年には,現在の北広島市で捕獲したタンチョウを明治天皇へ献納した記録なども残されている.しかし,『開拓使事業報告』によると,1873年~1881年の9年間での産出数は60羽程度であり,その数はさほど多いとはいえない.

おわりに
 古来よりタンチョウは,道具や料理の素材,商品や贈答品,あるいは愛玩動物などとして,様々な場面で人間に利用されてきた.特に江戸時代以降は活発な利用が行われ,かつて蝦夷地に数多く生息していたタンチョウも,蝦夷地の重要な産物として位置付けられた.蝦夷地では,本州方面への輸出が活発に行われていたと考えられ,江戸期を通じて利用の記録がある.さらに,ツルは明治期の北海道においても産物として利用されていたものの,その産出量はさほど多いとはいえない. このことから,北海道におけるタンチョウは,明治に入る頃にはすでに相当数捕獲され,その生息数も減少していたと考えられる.したがって,タンチョウ減少の要因は「明治の混乱期における乱獲」だけでなく,江戸期から続く活発な利用も影響していたと推測される.


北海道産水鳥類から検出された線虫類の概要と その空間疫学的解析

○吉野智生(酪農大院・獣医)、長 雄一・高田雅之(道環境研)、金子正美(酪農大・環境システム)、遠藤大二・浅川満彦(酪農大獣医)

 北海道は東アジア産水鳥類の中継地や越冬地として重要な役割を果たしている。しかし、近年は生息地の減少や環境悪化などにより、限られた生息地への一極集中とそれに伴う感染症、寄生虫症の発生リスクの上昇が指摘されている。演者らは2003年以降、酪農学園大学野生動物医学センター(WAMC)に収容された水鳥類について、寄生線虫類の保有状況の記録およびその分布特性を明らかにする試みを行っており、今回はその概要について報告する。検査対象としたのは計4目7科38種324個体に属する水鳥類であり、それぞれ道内各地で死体回収或いは傷病鳥として保護収容後に死亡したものであった。検査個体は計測、解剖後に全臓器を実体顕微鏡下で精査し、寄生虫を検索した。得られた線虫類は70%エタノールにて固定後、ラクトフェノール液を用いて透徹し、形態および計測値に基づいて種を決定した。検査個体の64.2%から計27種の線虫類が検出され、多くを新宿主、新産地として記録した。検出された種のうちCyathostoma lari, C. microspiculum, Amidostomum fulicae, Epomidiostomum crami, E. uncinatum, Porrocaecum semiteres, Inglisonema sp., Madelinema sp.およびSkrjabinoclava horridaは国内初記録であった。また検出された種の中には、家禽および野生個体での致死症例や若齢個体の大量死の報告があるAmidostomum, Epomidiostomum, Cyathostoma, Contracaecum, Streptocara, Echinuria, Sarconemaの各属線虫が含まれており、国内の水鳥類の保全を考える上でこれらの高病原性線虫類の保有状況を把握しておくことは重要であると考えられた。そのため、収容位置情報が明確であった個体の緯度経度情報を基に、空間配置パターン分析の手法の一つであるK関数法を用い、線虫の地理的分布特性について予備的に検討を行い線虫症の発生予測モデルの構築を試みた。その結果、寄生虫種によって形成するクラスタが異なり、広域分散型、凝集型、ランダム分布型等の傾向が認められ、この手法は寄生虫症の発生や分布状況の把握に有効であることを示した。現在、これら寄生線虫の分子生物学的解析手法を組み合わせ、より簡便な手法を検討中である(Yoshino et al., in submitted)。

 本研究の主眼は(獣医学の主対象である)個体レベルではなく、(進化学的な単位である)個体群レベルであり、その健康管理の応用に向けての初めての模索である。そのためには、線虫以外の寄生虫や他の病原体あるいは他の動植物の地理的分布状況や生息地の人為的な影響などの情報も重要であり、当然ながら、生態・進化など自然史的な側面は不可欠である。本研究会諸兄との今後の実りある連携を期待したい。  本研究は文科省戦略的研究拠点事業(酪農学園大学大学院獣医学研究科)および同・科研費基盤研究 (18510205, 20380163)の助成を受けた。


保全医学の証憑標本は教育活動にも活用-大学博物館創設への挑戦

浅川満彦(酪農学園大学 獣医学部 感染・病理教育群 / 野生動物医学センターWAMC)

 自然生態系や生物多様性の保全は世界的な潮流で、獣医学、医学および保全生態学との学際領域として保全医学が新興し、新興感染症や生態系への脅威として外来寄生虫などの調査が急増している。また、一般家庭では確実に飼育不適で、外来種問題の源ともなるエキゾチック・ペットの輸入数も急増している。さらに、希少動物の保護拠点として動物園や地方産業の振興のための特用家畜飼育など、人間社会に近接して存在する動物の多様化傾向は著しい。その傾向に比例するかのように、獣医学や応用動物分野の研究分野にあっても、多様な動物を対象する傾向を強め、たとえば酪農学園大学にあっても、動物学データベースでヒットする論文の七割強が、陸上脊椎動物(爬虫類、鳥類、哺乳類)を宿主とした微生物(ウイルス・細菌)・寄生虫学領域あるいは衛生動物・昆虫学領域などの保全医学に関わる。また、保全医学にあって、感染症・寄生虫症対策や宿主-寄生体関係の把握といった分野の比率は、世界的な関連学会や専門職大学院の教育課程を眺めても非常に高い。

 しかし、このような詳細な寄生体の保有状況調査が実行されても、宿主グループの分類が現在論議中である場合(例:トガリネズミ類、ヤチネズミ類、イタチ・テン類など)、 近縁亜種が人為的に野外に放逐される場合(例:シマリス、キタリス、メジロ、オオタカなど)、野生下で雑種化が稀ではない場合(例:野生カモ類間、アイガモとマガモ間など)などでは、あやふやな宿主情報では、宿主-寄生体関係の生態・進化・生物地理などの研究遂行で、誤った結論に達する危険性を孕んでいる。また、疫学調査では宿主の年齢・季節や分布域など時空間に関する宿主個体の情報が不可欠である。たとえ、調査結果の公表時点であやふやな宿主情報ではあっても、宿主標本が完備しておればある程度の再検討が可能となる。

 そこである宿主-寄生体関係が、特定の時・空間に分布したことを示す証憑が標本化される必要がある(voucher specimen(s))。通常、寄生虫学や野生動物の疾病分野における証憑標本とは、寄生虫/病原体自体の標本化についてのみ用いられる。疫学調査や宿主-寄生体関係の生態研究では、調べた動物に目的とする寄生虫あるいは病原体が「不在」であるという情報も重要であるが、不在証明された動物は、当然、宿主とは見なされず、記録すら残らないことがある。可能ならば、これら「調査対象動物」も同じく証憑標本化すべきである。疫学調査で対象とされる宿主あるいは対象動物の標本化などは皆無に近い。研究費、スペース、労力などが非常に限られた研究環境では、現実的に困難であることは想像に難くないが、2004年、酪農学園大学に保全医学研究拠点、野生動物医学センターWild Animal Medical Center (WAMC)が開設されたのを機に、この証憑標本を残す試みを継続している。

 この試みは困難の連続である。が、大学とは「研究を基盤にした教育」をする組織であることを明確化すれば、このような標本も有効な教育(啓発)に還元されれば、いつの日か大学博物館の創設などに繋がるものと信じている。今回はその挑戦の概要を紹介したい。